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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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魔女裁判2

 消えた。どういうことだ。なぜ消えた。おれの異能(アクト)は対象から吐き出される弱音を糧に生み出される奴隷人形だ。

 弱音とは逆らう意思を削がれた物言わぬ感情。故に能力者(しゅじん)の命令に決して逆らうことはなく、忠実に命令を遂行するだけだ。

 仮に相手が弱音を吐いた後、立ち直ったとしても、吐き出された弱音は消えることはない。

 いや、宝城は“弱音を刈り取る”と口にした。


「何をした、宝城」


「何って、言ったつもりだったけど」


 っち、やはりそうか。宝城はあの手に持っている鎌で奴隷人形を構成する、“弱音”と云う感情を殺したということか。


 危険――だな。あの鎌は想像以上に危険だ。感情を刈り取るという言葉から推測するに、弱音以外にも、怒り、喜び、嘆き、安心、不安、感情であれば全て刈り取ることが出来るということかもしれない。

 感情がゼロになるということは文字通り無になることだ。ならあの鎌に刃に触れれば最後、廃人同然の裳脱けになってしまうこともあり得るということだ。


「この鎌は感情を刈り取る。先生の作った偽物は“弱音”と云う感情を刈り取られて消滅した!」


 西條の表情が眼鏡のレンズ越しに曇る。驚愕と焦燥、そしてわずかな恐怖がその顔に浮かんでは消える。彼の中で感情という名のネガティブな思考が渦を巻く。

 想像通り。しかし、バカな、そんなことがあり得るのか。いや、あり得るからこそ、おれはこうして追い詰められてるんじゃないか。


「……」


 西條は無言を決め、冷静さを努めるように中指で眼鏡のブリッジを直すと、威嚇するように少女を睨みつける。しかし、当の本人はどこ吹く風。先ほどまで困惑と恐怖に怯えていたのが嘘の様だ。ミルの手に握られた禍々しい鎌は淡く紫色の光を放っていた。それは異質な存在感を放つ。

 その様子に西條は、自身の中に渦巻いている恐怖が膨らんでいく。そして直感する。この感情(これ)を悟られてはまずいと。


「この鎌、何て名前が良いかな?アタシが考えるとちょっと痛い感じになっちゃうかもな。死神(グリムリーパー)とか、さすがに安直かな。ねえ、先生。どういう名前が良いと思う?」


 ミルは鎌を手のひらの上で回転させながらそう問いかける。西條がそれでも無言を貫き通すと、ミルは一方通行の会話を続けた。


「まあいいや。先生、さっきからアタシをどうにかしようとしてたよね。でも、それはもう無理。先生も分かってるんじゃないかな?チョキはグーに勝てないのと同じだよ。アタシの異能(アクト)には先生の異能(アクト)じゃ敵わない」


 急激な人格の変化。つまりあの鎌で自分自身の弱音や恐怖心すらも刈り取った。そういうことなんだろう。

 これは劣勢。間違いなく劣勢。宝城言う通り、あんなものが出てきたんなら、おれの異能(アクト)如きじゃどうにも太刀打ちできない。


「確かにそうだ。確かにそうだが」


 おれの異能(アクト)なんて足元にも及ばない――だが、異能(アクト)以外ではどうかな?


「宝城。お前は、自分のしていることが理解できているのか?」


 西條は冷静さを装いながら問いかける。


「ん?分かってるよ」


 ミルは即答した。その言葉には一切の迷いはない。


「アタシはこの力を使って守れなかったものを守る。それだけだよ。この力はきっとそういうモノだって信じてる」


 しかし、その言葉の奥に潜む危うさを西條は見逃さなかった。


「感情を刈り取る、か。たしかに、お前はその鎌で“自分自身の弱音”を刈り取った。だが、それはお前自身が秘める内なる感情も例外じゃないだろう?」


 ミルの表情が一瞬だけ曇る。しかしすぐに、彼女はにやりと笑って言い返した。それが何を意味するのか西條には分からない。


「で、何が言いたいの、先生?」


「お前はたった今、異能(アクト)に目覚めたのだろう?いわば赤子。生まれたての状態といえるだろう」


「……」


「お前は今、仲間を傷つけられたことによるおれへの憤り、未知の力を体得出来たという微熱に浮かされている状態なんだ。詰まるところ冷静さを欠いている。お前はその力の危うさに気づいていないッ!」


「……なにそれ、そんなこと。大丈夫、アタシはいたって冷静だよ。っていうか、焦ってるのはむしろ先生の方じゃないの?」


 ミルは小馬鹿にした仕草と呆れ顔でそう言った。

 いや、動揺しているのは間違いないのだ。その証拠に、視線が一瞬泳いだのを見逃さなかった。


「分からないのか?おれだって同じだった。異能(アクト)は奇跡の存在。起こりえない超常現象を無理やり生み出す禁忌と同じ。禁忌って蠱惑的だよな?ドラッグ、生物学、錬金術っ!けどどんなお話だって禁忌に手を染めた者の末路は、到底視れたモノじゃないぜ?なあ宝城。もう、おれの言いたいことが分かるよな?」


「……っ」


「お前のその力にはっ、代償が付きまとうはずだと思わないかってことだよッ!」


 西條はまくし立てる様にそう言い切った。言い切った後に、熱に浮かされてるのは自分も同じかもしれないな。なんて自虐的に笑って見せた。


「代、償?」


 今度は分かり易い。たしかに今言葉を詰まらせた。あと一押しだ。所詮ガキ。どんな力を手にしたとしても、経験則、これが圧倒的に不足しているんだ。話を聴く耳さえあればいくらでも欺き騙し通せる。あまりにも下らない。あまりにも容易い。


「宝城、お前は自分で気づいていないだけだ。その鎌の力を使えば使うほど、お前は“自分”を失う。弱音だけじゃない。怒り、喜び、不安、安心、全部だ。刈り取られた感情は二度と戻らない」


 西條の言葉に、静観していた執音と茉莉がハッと息を飲む。


「それがどうしたの?」


 しかしミルは、あっけらかんとした調子で答えた。


「アタシが感情を失おうと、それで誰かを守れるなら、それでいいよ。別に、いい」


「ミルっ!」「ミルちゃんっ!」


 執音たちが叫ぶ。その声には悲痛な響きがあった。


「ダメだよっ!そんなの!感情を失ったら、それはミルちゃんじゃない!茉莉たちが助かったって、ミルちゃんがいなくなったら……そんなのいやだよっ!」


 茉莉の言葉に、執音も重い口を開く。


「ミル。茉莉姉の言う通りだ。お前には言いたいことがまだたくさんあるんだ。ぼくはお前にお礼を言えてない。……それに、茉莉姉を悲しませるなよ」


 その言葉に、ミルは一瞬だけ目を伏せた。


「ありがと。でも」


 彼女の握る鎌から放たれる光が、わずかに翳るのを感じた。


「アタシには、これしかないんだよ」


 その言葉に、西條はにやりと笑みを浮かべる。


「そうか。やはり、お前はもう“異能(アクト)”に取り込まれ始めているな」


「?」


「おれも教師だ。お前のことは少なからず見てきているつもりだ。以前のお前であれば、“自分を犠牲にして誰かを助ける”なんて言葉、出てこなかっただろうさ」


 西條は諭すようにミルに語り掛ける。


「感情を刈り取る鎌を振るう。随分な力じゃないか。けど、お前には過ぎた代物だよ。おれは先ほどお前の手に持っている鎌が、お前の心に呼応して輝きを変えたのを見逃さなかった。これがどういうことか解るか?」


「解らない」


「つまり、お前が鎌を振るうということは、自身の命すら削り刈り取ることに繋がる。今は正気を保っていられるとしても、やがてお前は鎌そのものに魂を刈り殺されることになるだろう。宝城、今のお前が正気を保っていられるのも、時間の問題かもしれないな?」


 その言葉に、息を飲んで見守っていた茉莉が、身を乗り出しながら声を張り上げた。


「どうしてそんなことを言うの!?ミルちゃんがそんなことになるわけない!」


「クククク、そうだといいな」


 西條は冷笑を浮かべながら、ゆっくりと距離を取るように後ずさった。それに追い縋るようにミルは駆けようとするが。


「おっと、いいのか?お前の大事なお友だちの後ろには、まだおれの作り出した伏兵が隠れているぞ?」


「っ!?」


 ミルたちは慌てて背後を振り返るも、そこには何もない。これが西條の出まかせだと気付くのには時間はかからなかったが、振り返った時、すでに西條の姿はそこにはいなかった。

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