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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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アタシとお母さん

 今日は「アタシ(ひとり)だけの秘密基地」が「みんな(さんにん)の秘密基地」に変わった日だ。


 夕陽の温かな光が木々の隙間から差し込む中、秘密基地に立つ三人の影が地面に沿うように伸びていく。壊れかけた壁に手で触れ、散らかっていた床に目を向けた。

 その意味なく散らばった残骸の配置さえも、何か意味のあるかのように思えた。


(……三人の場所)


 静かに目を閉じて思いを馳せる。これから変わっていくこの場所を。アタシたちの新しい居場所を少しずつ創り上げていく。かつて“アタシだけの城”だったこの秘密基地が、いつの間にか三人の手で生まれ変わっていくその光景。

 それが寂しいのか、嬉しいのか、自分でも分からない。ただ一つ確かなのは、胸の中にあった重たい孤独(さびしさ)が少しずつ軽くなっていることだった。アタシ一人では感じることができなかった温かさみたいなものが、心に波紋を打つように広がっていく。

 それはきっと、素敵なこと。


「ありがとう。うん、今日は、帰るよ」


「うん、また明日」


「また、明日」


 アタシたちは示し合わせるでもなく手を伸ばし拳をぶつけた。また明日、ここで会うと約束をして。

 明日は今日よりももっと素敵な日になる。そんな気がした。


「ミルっ!こんな遅くまでどこに行ってたの!」


 家に帰るや否や、開口一番に叱られた。

 叱られるのは分かってた。当然だ。昨日あれだけの心配をかけて、今日は早く帰ってきなさいと言われていたにも関わらず、こんな遅くまで帰らなかったのだから。

 今日は心配の声は掛けられなかった。「おかえりなさい」でも「大丈夫?」でもなく「どこ行ってたの!」だった。

 分かってた。分かっていたけど、心配してほしかった。こんなこと言える立場じゃないけれど、それでも心配してほしかった。こんなことを考えるのは卑怯なのかな。アタシはまだ子供だ。甘えているだけのただの子供だ。

 さすがに孤児院から抜け出してきた子たちと喋っていたとは言えない。付き合いを切れと言われるのは確実だろうし、もしかしたら、警察に通報されてしまうかもしれない。そんなことになったら、アタシはあの子たちに、何と顔向けをすればいいだろうか。だから、何も言い返すことが出来なかった。


「ミル。母さんをあんまりいじめてやるな。お前も、もう分かるだろう?こんなくだらないことで、おれたちだって叱りたくないんだよ」


(くだらなくなんか、ないよ)


 そう思ったけれど、それを口にすることはしなかった。

 お父さんは仕事でいつも帰りが遅かったし、帰ってこれない日も少なくなかった。だから、お母さん程アタシに干渉をしてくるタイプではなかったけれど、お父さんはいつでもお母さんの味方だった。


 次の日からお母さんが学校の前まで迎えに来ることになった。

 それはつまり、“秘密基地に通うことが出来なくなった”ということだった。

 当たり前の話だが、彼らは連絡手段となるような物を持ち合わせているわけがない。


 アタシは、ただただ心配だった。

 不用意に人前に顔を晒せない彼らが、その日を生き抜くため何をしなくてはいけないのか、何が出来るのか。きっとそう多くはない。あんなところにいつまでも住んでいられるわけがないし、食事の問題もある。着替えもいる。お風呂にも入らなければいけないだろう。それを考えると勉強なんて、とてもじゃないけれど手がつくことは無かった。

 だから、勉強が捗らないとまた頭を小突かれた。けど、今は小突かれた頭の痛みよりも、彼らへの心配の気持ちの方が大きかった。

 家にいる間、窓から視える四角く区切られた空は、どこか閉じ込められているみたいで、窮屈に感じた。自由に駆け回る鳥や、風に揺れる木の葉が視界に映るたびに、あの秘密基地と彼らのことが頭をよぎる。

 執音くんや茉莉ちゃんは、今頃どうしてるんだろう。秘密基地の修理は進んだかな。二人とも、無事にしてるかな。


「何をそんなにぼーっとしてるの?」


 お母さんの声にハッとして、アタシは急いで視線をノートに戻した。


「べ、別に。ちょっと目が疲れただけ」


 ぎこちない返事をしながら、ノートに書かれている文字の世界に逃げるように、ただ黙々と勉強を続けることにした。秘密基地のことを考えているなんて、お母さんには絶対に言えない。悟られるわけにはいかない。


「お母さん。その、ちょっと外に遊びに行ってもいい?お外の空気吸いたいの」


 次の日の午後、そう訊ねてみた。


「いいよ」


「え、ほんと?」


「けど、お母さんもついてくわ。そうだ、夕食の買い物もついでに行きましょう。ミルの好きなお料理作ってあげるからね」


「……う、うん」


 別に監禁されているわけじゃない。だから、四六時中監視されているわけじゃない。ただ、アタシへの信頼が無くなっている状態なだけ。

 お母さんだって一人の人間だ。トイレにもいけば、休憩もする。ふとしたことで目を離すことなんていくらでもある。抜け出すタイミングなんていくらだってあった。

 現に今、お母さんはお会計をしている最中だ。こちらに見向きもしていない。


 けど。

 今ここで抜け出して、秘密基地へ向かうことは可能でも。それをしてしまったのなら――本当に信頼を失ってしまうだろう。

 アタシはお母さんを悲しませたいわけじゃなかった。だから、いざこうしてその機会が訪れたとしても、アタシの弱い意志では抜け出すことなんて出来なかったのだ。

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