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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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アタシの秘密基地2

「よっと!」


 運動神経は良いほうだ。だから、木登りは得意だ。これぐらいの手ごろな木ならサクサク登ることが出来る。

 別に初めから得意だったわけじゃないけれど、秘密基地に何度も通ううちに知らぬ間に得意になっていった。お母さんが見たらたぶん腰を抜かすかもしれない。


「けど、ここはちょっと登っただけじゃそれより高い木が邪魔して景色は良くない、かな」


 ちらりと上を見上げるが、さすがにこれ以上登ろうという気にはならない。ここは森の中。もし足を踏み外して地面に落下してしまっても、誰も助けに来ないからだ。

 アタシは一通り深呼吸をし、満足した後、器用に枝を踏みつけ、勢いを殺しながら地面に降りることにした。

 汚れないように着ていた服を折りたたみ避けておく。あらかじめ基地に置いておいたパーカーに袖を通すと、汚れたシーツに構うことなく仰向けに寝転んで、再び呟くように言う。


「がんばるって何なのかなぁ」


「頑張ってる」と言いつつも、ミル自身もその頑張り”が何を指しているのかは分からなかった。

 勉強?お稽古事?それとも恋愛?どれも中途半端で、何一つ“これが自分だ”と胸を張れるものはなかった。その先に何があって、何が正解なのか分からなかった。

 たぶん、良い点数を取ればいいとか、目先のことしか言っていないんだろう、とは思ったけど、それが頑張るという意味での形ならば、アタシは頑張り続けることなんて出来ない。そう思った。


「えへ、へへへ」


 くすんだ鏡に向かってぎこちなく笑って見せた。笑ったつもりなのに、鏡に映るアタシは口を釣り上げるだけで、笑顔とは程遠い顔。笑ったのに笑っていない。まるで自分が自分じゃないみたいだった。


 だから、笑うことは苦手だ。

 学校でも咄嗟に声を掛けられると、こんな表情をしてしまっている気がした。作り笑いをする自分にイラついてしょうがない。だから、鏡なんて本当は置いておきたくないんだけど。


(顔とかに泥が跳ねてると、後で何言われるか分かんないから)


 持っていたハンカチを取り出すと、泥で汚れた鏡を拭きとることにした。


(あれ?なんで、涙なんか)


 水滴がズボンを一つ二つと濡らす。自分でも知らぬ間に涙が溢れてきていたようだ。つまらないや悔しいと思ったことはあっても、悲しいと思ったことなんかない。

 親に小突かれても痛くはなかったし、学校での疎外感は虐められているわけではなくて、アタシ自身が溶け込めないことによるせいだ。

 だから、これまで涙なんか流したことは一度だってなかったのに。


「ん?」


 ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてくると、軋む木材を小気味良く叩いた。


「やばいっ!」


 畳んでおいてあった服に咄嗟に覆いかぶさるように飛び込み、慌ててパーカーを脱ぐと、元の服に急いで着替え始める。のだが、焦ってもたつく両手では上手く着替えることが出来ず。


「っわっわっわっわっわ!うわぁあぁ~!」


 ゴロン、ドサドサ。

 雨音を掻き消すように大げさすぎる音を立てて、基地の壁に転がり突っ込んだ。ぶつかった衝撃で積み上げられていた本やら、家具やらが将棋倒しのように雪崩れ込んできた。傍から見れば生き埋め状態のようになってしまっているだろう。


「うっ。げほっこほっ!いったぁぁ~」


 やっとの思いでガラクタを押しのけた先に、現れたのは開け放たれた空。そこにはいつの間にか空一面に敷き詰められていた灰色の世界。降り注ぐ雨を浴びるように顔を向ける。

 アタシはそんなに弱くない。独りだって強くいられる。


「ぅ……ふぅっ!ぅうぅ……」


 耐えた。耐えようとした。唇を噛んで、血が出る手前まで噛みついて痛みで悲しさを押し殺そうとした。だって、ここで泣いたら、惨めな自分を自分が肯定してしまうと思ったから。だから、それは最後の砦。


「ぅ……うぅ……ぐずっ!うぅうぅぅ」


 けれど、出来なかった。

 思えば、塞ぎ込んでしまった空っぽのアタシが泣いたのは、この日が初めてだったかもしれない。

 灰色の雨粒はガラクタを被って、汚れた顔を洗い流していく。泣き声が雨音に混じって、掻き消されていく。けれど、それでよかった。誰にも聴かれないだなんて、自然現象のくせに気が利いている。

 それに誰にも視られなくていい。ちょうど、いいじゃないか。アタシにさえ聴こえないから、今は程よく心地がいいんだ。

 涙はすぐに止まる。立ち上がる拍子に地面に転がった鏡が目に入る。雨に濡れた情けない表情では、果たして本当に止まっているのか、雨粒のせいなのか、よく分からなかった。


「へへ。けっこう強いんだね、アタシ」


 雪山に燃える(ともしび)の如き今にも消え入りそうな震える声で、自分に言い聞かせるように呟く。でも、そんな声音すらも雨の音に掻き消されて、自分の耳にも届かなかった。

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