真夜中の侵入者騒ぎ2
「ど、ど、ど、どうしよう!?これ、団長に連絡すべき?いやでもまだ約束の時間まで二十分あるし、怒られる?い、いや、それじゃダメだっ!ダメなんだよぅ!」
そう言いながらも、どこか震える声で自分を鼓舞するミル。とりあえず、室内の隅にあるアンティーク時計――おそらく団長が通販で衝動買いした何かだろう――を手に取り、警戒心を高める。
嘘真朧は部下のミスなどには比較的甘く大らかだが、寝起き、というよりも睡眠に関しては人一倍うるさく、どこぞの陶芸家の如く非情に繊細である。
一時間寝るといったら、一時間きっちり寝ないと気が済まないタイプなのだ。なんでも寝た分だけ体力が回復するから、寝不足も寝すぎてもダメという話らしい。ゲームのキャラじゃあるまいし、何ふざけたこと言ってるんだ、と言い返したこともあったが、静かな怒りを燃やした団長に無言の腹パンを決められてしまった。
だから、起こせない。今起こしてしまったら、二十分ぶんの怒りを買ってしまうことは明白。今起こしてしまったら「二十分ぶんの“体力回復”が足りない」とかワケが分からない理由で、また腹パンされるのだ。
ミルはその腹パンの痛みを思い出したのか、自分の腹をそっと押さえてビクビクと震えた。
「いや、でもさぁ!侵入者がいるかもしれないっていう状況で団長を起こさないって、それはそれで怒られるんじゃね?いや怒るどころか、また無能とか使えないとか言われるし!絶対に!」
こう口を尖らせて「ミルちゃん、何で起こさなかったの?本当に使えない。まさかここまで無能だなんてね」彼女の脳内では、嘘真朧の冷たい目と嫌味たっぷりな言葉が再生されていた。
「あーもーっ!どっちに転んでも怒られるじゃん!どーすんのこれ!?アタシのせいじゃないのにー!ふざけんなーっ!」
そう言いつつ祈るように片目を瞑り、彼女はスマホの画面を再度確認し、警報音が止まる様子もなく鳴り響いていることを再度確かめる。
「ひぃん、やっぱ止まんない!これ絶対本気じゃん!緊急速報の誤作動とかじゃないやつじゃん!」
外から聴こえる足音も次第に大きくなり、扉の前で完全に足音が止まった。ミルは内心泣きそうになりながらも、小声で自分を励ますように呟いた。
「だ、だいじょーぶだいじょーぶ!いざとなったら団長がいるし、団長を盾にして……」
彼女はその言葉を言い終える前に、内心で「いやそれは確実に腹パンどころじゃ済まない」と気づき、慌てて頭を振った。
(えーっと、つまり。まずは、アタシが何とかするしかない!そ、そう!これをチャンスだと思えばいいんだ!侵入者を倒して、アタシが有能だって見せつけるの!そしたら団長も、さすがミルちゃん!って言ってくれるはず!)
脳内で整理するように考えをまとめ上げると、彼女は再び強くアンティーク時計を握りしめ、へっぴりに腰を落とした。完全に防御の体勢だが、相手は正体不明。やはり顔には不安の色が隠せないのだ。
入口から死角になる扉の陰に身を潜めるミル。その瞳には恐怖と覚悟が入り混じっていた。
足音が次第に近づき、ついに扉の前で止まる。部屋の空気は張り詰め、緊張感が頂点に達した。手に持ったアンティーク時計に汗が滴り床へと落ちる。マジか、アタシちゃんこんなに多汗症だったんか――なんてどうでもいい事ばかりが頭を駆け巡る。
「……来る、あー来る来る来るってば!やばいやばい、マジやばい!」
アンティーク時計の、カチリという音を掻き消すほどに高鳴る心臓の音が、心臓を内側からバンバンと騒がしく叩き続ける。
緊張の糸が限界を超え、はち切れそうになったそのとき、異質な電子音と共にロックが強制解除され、扉がゆっくりとスライドした。




