銀ノ木へと
あたしたちは朝ご飯を終え、アリィちゃんとホテルの前に集まっていた。なにやら風ちゃんの怪我を治してくれた医者でもある、燈ちゃんから話があるようなので、先に行っててくれと言われた。
もしかして旅を続けられなくなったのかなと心配をしていたのだが、それはどうやら杞憂みたいで、酷かったといわれていた風ちゃんの怪我についても、もう動き回っても大丈夫なほど回復しているみたいだ。
あたしが何度も大丈夫としつこく訊ねたせいか「大・丈・夫、だってんだろ」と頭をぐりぐりされてしまった。だからなのか頭がちょっぴり痛い。
「千寿流、フェルメール。随分と待たせちまったみたいで悪かったな」
「あれ、結構早かったね?燈ちゃんと何の話をしていたの?」
「別に大したことじゃねえよ。気にすんな」
気にするな。そう言われると余計に気になるのだが、また頭をぐりぐりされても敵わない。次にアレをやられたら拳と拳ががっちんこしてしまうかもしれない。
「まあ想像するに、おおかたこんな酷い怪我になる様な、危ないことはしないでくださいと、説教でも喰らっていたんでしょう」
「うるせえよ」
やばい、アリィちゃんもやられちゃう!と思い目を瞑ったのだが、風ちゃんはそのまま通り過ぎ、階段を下り終えるとこちらに向き直る。あれ、なんであたしだけやられたんだ?腑に落ちない。
「いよいよだな。銀ノ木、たしかフェルメールの故郷なんだったよな」
「ええ。といってもわたしは絶賛一人暮らし中ですし、というか家には長らく帰っていないですし、感慨深い、みたいな感情はないですけどね」
しかも、地区毎に区分され断絶される情報規制により、故郷といえどアリシア自身の耳にもまともな情報は入ってきていない。故郷には友人はいるものの、地区内で共有される情報の漏洩は法律で固く禁じられている。
その為、一般人の地区外へ電話や動画、チャットを通しての通信に関しては、監視下に置かれることとなっている。暗号のようなものを用いて、情報を伝えようと試みたグループがあったようだが、あえなく見つかり処罰の対象とされたことは周知の事実である。しかも、なんと実名報道されるという重い罪に処されるに至る。
しかしその後、実名報道された人物の情報が世に出回ることは一切なく、事実と実態におけるあからさまな乖離の様子から、一部で懐疑的な意見が出ており、政府が用意したエキストラ、自作自演との見方もあるようだ。
ちなみにこの決まりについては一部の役職、立場の人間のみ例外的に除外されているらしいが、詳しいことは定かではない。
事実はどうであれ、実名報道されるとなれば、トレジャーハンターとしての肩書は剥奪。後ろ指をさされるということも併せて、堂々と立ちまわることも出来なくなる。とまあリスクばかりで割に合わないわけだ。
たしかに情報は言葉だけではない。連絡さえ取っていれば、相手の声の調子からそれとなく電話越しに情景や事情を察することぐらいは出来る。のだが、如何せん関係自体も良好とはいえるものではなく、勝手に出てきてしまった手前、なかなかこちらから連絡を取りづらい、という後ろめたさもあった。
「別に思い入れはないですよ。わたし、トレジャーハンターなので。未知が既知となる、その瞬間を自身の手で叶える。その瞬間こそが、脳汁溢れる至福の時といっても過言ではないですからねっ」
隣に歩きながら聴いていた二人からは特に返答はなかった。
「じゃあ、何で戻りてえんだ?」
「そういえば風太にはまだ言ってませんでしたね。銀ノ木は魔導学院が有名ですが、他にも異能に関して、それも脳科学を専攻している施設がありますから。もしかしたらちずちずの異能の秘密についても何か明らかになるかもしれないと思ったんですよ。それに――」
一瞬、間が開いた。
「やっぱり、気になっちゃっていますかね。はい、ごめんなさい。やっぱり故郷ですし、気になります」
「えひひ、やっぱり?うん、そうだよね。そうだと思った!」
「……」
それにという言葉の後、何かを言いだして口籠るアリシアの顔色が一瞬、ほんの一瞬だけ曇る。そんな様子を気にとめたのは風太だけだった。




