アリィちゃんとあたしとお料理
ランランラララ~~~♪
いつもの曲、いつもの時間。寝惚け眼を擦ることもなく、手を伸ばしてスマホのアラームを切る。眠いのに起きろと急かしてくる、騒音とも呼べる上機嫌な声に少しイラっとした。
正直言うと、あたしは朝にあまり強くない。
初めは好きで設定したとしても、繰り返し同じタイミングで耳に入ってくると、次第に苦手意識が芽生えてくることってないだろうか。間違えてスヌーズの設定をしてしまっていて、数分おきに何度も起こされ続けた時は、思わず声を上げてしまったこともある。
しかも、設定しているのはあたしが大好きな曲、というわけではなく、ストアランキングで上位に入っていた今流行りの楽曲だ。ちなみに理由もそのまま。ストアランキングのトップにあり、目立っていて聴いた感じ良いなと思ったから、特に気にも留めずそのまま購入した。そのこともあってか街中で同じ歌が流れてくると、意味も無くビクッとしてしまう。我ながら情けない。
あたしはこうやって、何も考えずコンテンツを購入してしまうことがあるのだが、そのたびに叱ってくれるパパの存在がたまに恋しくなる。
「あ、ううん。ご飯作らなきゃ」
そのまま睡魔の海に溺れかけそうになるのを、寸でのところで持ちこたえる。今はアリィちゃんに修行を付けてもらっている身なのだ。それなら中途半端に投げ出したくない。それに一度手を抜いてしまったら、その次からも気持ちにゆるみが出てしまうかもしれない。
あたしの為を思ってくれているのなら、あたしもそれに応えたい。出来る限りでいいから応えたいのだ。
「ちずちず、そのままもう少し眠っちゃってて良いですよ。今日はわたしが作りますので」
「へ?」
意外な返事だった。これまで一日三食。欠かすことも無かったお料理修行『アリシア特製、地獄の捧腹絶倒悶絶躄地』。メニューを一度も被らせることなくという制約の下、いろいろと頼りない頭をフルに働かせて様々な(珍)料理を作ってきたものだ。
あたしは何を作っても墨みたいになってしまう程、料理が絶望的に下手というわけでもないが、みんなに自慢できるほど上手というわけでもない。テクニックや知識も皆無、ちょっとお料理を作れる人からしたら、笑ってしまうレベルしか持ち合わせていない。それでもたぶん風ちゃんよりは上手、だと思うけど。
だから、苦い顔をされることもあった。けどそれだけじゃない。駄目だった時や失敗しちゃったときは、アリィちゃんはここをこうしたほうが良い、こういう方法もある。みたいにアドバイスもくれた。
美味しくできた時は、満面の笑みでガッツポーズをしてくれた。すごく嬉しかった。
「だってほら、風太が返ってくるまで、とは言いましたけど、風太遅れちゃってるじゃないですか。わたしとしてはきっちりと期間を決めたつもりでしたから。それに、ちずちずは学校もありますし、重荷でしょう?」
それはそうかもしれない、けど。
終ってしまうんだなと思った。だからだろうか。もういいよと言われた時、ちょっぴり、ほんのちょっぴり、寂しかった。
「なんか、雨降りそうだね」
あたしは少し眩しくもある雲に覆われた空を、右手を翳しながらそう言った。時刻は昼の十二時過ぎ。だというのに曇り空のせいもあってか、町全体がどんよりとした空気に包まれている。
「天気予報でも二時からは降水確率七十パーセントと出ていますし、午後の授業はどこか室内を見つけたほうが良いかもしれませんねえ」
スマホを通してのリモート授業の意外な困りどころがこれだ。家の中でならばいくら音量を大きくしても、大きな声を出しても咎める者はいないが、外となると話は別。カフェやレストランなどはもちろん、インターネットカフェでも必要以上の騒音は厳禁。憚ることなく声を出せる空間というのは、プライベート以外では意外と見つからないものなのだ。
「そうですねえ。わたし良い場所思いついちゃいましたよ?どこかわかります、ちずちず」
アリィちゃんが人差し指を頭に当て、ウインクしながらそう言う。その仕草がなんだかお姉ちゃんって感じがして、ちょっと嬉しい気持ちが込み上げる。たぶん、あたしは一人っ子だから、こんな感じでお姉ちゃんの存在に憧れていたんだろう。
「ううん、わかんない。アリィちゃん、教えて!」
「それはですねえ。ズバリ、カラオケです!」
ちっちっちと音が聴こえてきそうな仕草をした後、アリィちゃんは手で鉄砲の形を作りながらそう言った。




