風太の異能
初めの一撃、無防備な項へのcrystalEdge。真芯を捉えての一撃は会心のクリティカルヒット。
今のオレは自分でいうのも何だが、修行のお陰で継戦力の克服と共に、純粋な殲滅力も上がっている。項は言うまでもなく人間の弱点だ。それは人型の魔獣に対しても当てはまるはず。だから、一撃で仕留めきれると思っていた。
二撃目、正面見据えての鳩尾へのsapphireRaid。鳩尾部分は装甲が他と比べて薄いことからも、弱点の一つには違いないという分析の元だ。敵の攻撃を掻い潜っての一撃になったため、渾身の一撃とはならなかったが、硬い肉体を抜けた先、何か包み込むようなクッションのようなものがあった。
もしかして人間とは違う肉体がオレの一撃を吸収して、ダメージを和らげたとでもいうのだろうか。警察官の女が言うには、それに加えて再生力を持っているという。
それから十分間。あらゆる角度で攻撃を叩きこんでやった。というのにどうにもこうにも倒れる気配はない。攻撃が通っていないというわけでもない以上、やはり並ではない再生力を持っているということだろう。
「随分とタフだな、アンタ。オレの言ってること分かるか?言葉は、喋れねえか」
「グゥウゥうぅぅ」
やれやれ。あの廃病院の地下の魔獣といい、砂漠で現れたデカい魔獣といい、なかなかどうして飽きさせてくれないものだ。
相手の攻撃は全て見切れているし、そして全て躱している。息は少し荒れているが問題ない。戦い方を変えればまだまだ余裕はある。もう少し観察が必要だった。
「来いよゴリラヤロー。別に急ぎってわけでもねえ。もうちょっとだけ付き合ってやるよ」
「……ごく」
互いに目線を合わせる。静まり返る世界に、勇璃の唾を飲む音だけが聴こえた。
“君の場合、あれこれ悩んで自分の色を曇らせるのはお勧めしません。そのほうが君らしいですからね”
別に悩みは無い。こいつ等には悪いが、今はなんだか清々しい気持ちだ。
「なあ、アンタ。あん時の警察官サンだろ?あのオッサンに会えたらお礼言っといてくれねえか?オレは何とか大丈夫だ、ってな」
「え?」
「いや、何でもねえ。今のは忘れてくれ」
風太はそう言いながら勇璃に目線を送る。何を伝えたいのか察した勇璃は、口には出さず一度だけ深く頭を下げると、傍らに倒れて伏している知瑠を背負いその場を去って行った。
「なんだ、追わねえのな。それともオレを認めてくれたのか?」
答えはなく、魔獣は静かに唸る。ただ静かにその場に立ちはだかる。会敵した障害を逃さず、屠らんとギラついた双眸をこちらに向けるだけだ。
風太は反動というリスク無しで、勇璃の翊にも勝るスピードを維持することが出来た。
(さて、どうカードを切る)
オレの異能 疾風『AloofnessSoul』は単純な身体強化による敏捷性の向上。そしてそれに伴う肉体への負荷の軽減。こう聞くとただ疾いだけじゃないかと言うやつもいるが、何も疾いだけの羽虫ってわけじゃない。疾さは力。速度を極限まで高めた一撃は破壊力にも繋がるし、手数にものを言わせれば反撃の隙を与えない掃討力も補える。
故に相手との相性を選ばない、強力な異能だといえるだろう。事実、オレはこの異能でいくつもの命を救ってきたし、拾ってきた。
しかし、この能力は万能じゃない。オレの異能にはある条件が課せられているからだ。まあ、正直この辺りはまだ探りが入った部分というか、オレ自身が長年この力で戦ってきて感じたことなんだが、最近になってより強く実感した。
その条件。それは“脳内の処理として視認される”こと。
つまり、相手の視界の中にオレが映ることこそが、この能力を最大限に発揮できるタイミングということになる。もちろん、異能の発動自体は一人でも出来るが、著しく質が落ちる。
これまで決定打としてきた技の数々は全く披露できないといっていい。気づきそうなものだが、灯台下暗し。日常でこの力に頼ったことがないから分からなかったというわけだ。
そうなるとこう思うかもしれない。過去にあった戦いからの逃走時、相手が見失った際に異能の性能が著しく落ちるのではなかったのと。
この部分もよく分からねえが、一度視認されればたとえ誰かの視界から消えても、少しの間性能を維持できる、らしい。ちなみに一定の時間か、範囲内かどっちかもわからねえ。考えてみると異能ってのは分からねえことだらけだな。正直不気味だぜ。
ちなみに“脳内の処理として視認される”条件を満たすのは敵じゃなくてもOK。味方に視認されながらであれば、オレは異能の性能を維持し続けることが出来る、というわけだ。
この辺りは異能の開示に近いシステムなのかもしれないな。
故にオレにとっての背後からの奇襲は最強の一撃とはなりえない。それでも無防備な相手への一撃としては、引き算をしてもお釣りがくるレベルであることに変わりはないだろう。だからこそ、初撃で沈めなくてはいけなかったのだが――
轟音。風太がつい先ほどまで立っていた位置の地面が抉られる。
「疾え。良いじゃねえか。さっきよりもボルテージ、上がってんな?」




