違和感
オレだって同じだ。生きていくうえで金は必要だし、何もせずにはいられない。
大人になれないまま大人になったオレは、姉の意見に流されるように魔獣狩りとなった。その日暮らしでバイトをして、自堕落な生活を送っていたオレにとっては、まさに天職とも思える様な仕事と感動したものだ。
「フン、魔獣をぶっつぶすだけでいいなんて楽なもんだな」
異能に頼り切った戦い方ではあったが、疾さという純粋で混じりけの無い能力故に、会敵して敵わないと感じた時でも、安全に戦闘を離脱できる強みを理解していたオレは、確実な勝ちだけを選定し、積み上げるように戦果を重ねて、そのギルドでは戦いの天才なんて異名を付けられるようになった。
誰もオレ自身は見ちゃいない。オレの戦果だけを見て語っているだけだ。
けど、それはオレだって同じかもしれないな。
ある日朝早く起きたオレは、何気なしにテレビのリモコンに手を伸ばし電源を付けた。
そこには、画面の向こう側で声高らかに名乗りを上げる誰かが映っていた。もう名前も思い出せない誰か。その存在の意義さえ問う、燃え尽きて灰となった1ページ。それは幼き日に思い描いていた憧憬だった。
(悪モンってのはなんでこんなことすんのかな。どうせ死ぬんなら意味ねえのにな)
想い焦がれた形こそ思い通りに行かないものだと、カーテンを閉め切った部屋の中、明かりも点けずに死んだような眼で自分の知らない誰かを見続けた。何を考えるでもなく、何を思い馳せるでもなく。
今の自分をあの日の自分が見たら、怒り狂って殴りかかってくるかもしれない。いや、こんな自分は自分じゃないと呆れて帰ってしまうだろうか。だって、あの日憧れていた工藤風太という男は、もうどこにもいないのだから。
そんなオレを姉は、呆れることもなく必死に励まし続けてくれた。
面と向かってお礼なんて言える柄じゃないけれど、感謝はしてるつもりだ。口を開けば喧嘩もし合う仲だけど、きっと、支えてもらって歩き出せたことだけは、一生感謝し続けるだろう。なぜなら、前を向くことが出来たから。今まで視えなかったもの、視ようとしなかったものがようやく視えたのだから。
その両の眼を刮目し、現実と向き合うことが出来た。
そして。
“オレは近衛千寿流という少女に惚れたのだ”
分かっているとは思うが、一応誤解を生まないよう訂正しておく。異性としての惚れたじゃない。
自分の倍以上の体格。畏怖の対象。その脅威と呼べる存在に、勝ち目もあるか分からないという中、友だちを守るというだけのために立ち向かった、その横顔に。その想いの強さに惚れたのだ。
だからきっと、港区での邂逅、見返り無しで付き合ってやろうと思えたんだ。今ではそう思ってる。
まあ、礼ってことには違いねえんだけどな。
「あ、あなたは……!?」
「笑っちまうだろ。アイツならよ。きっと勝てなくても助けようって考えるんだ。まだガキだからよ。軸はブレブレでアンバランス極まりねえ。けどよ。ビビった心臓のビートを必死で押し殺してる泥臭さはよ。オレには大見得切って格好をつけるだけのヒーローよりカッコ良く視えるぜ?」
誰だって想いがある。その想いに準じて、殉じて、生きていく。
情けないかな、オレにはまだしっかりと視えてこねえ。
けれど、バカならバカなりで良い。
____だって、その身体一つで生きてきたのだから。
きっと、この先もこの体一つで悩み続けていく。
「ふぅ。底なしの体力っつーのな」
「き、気を付けてください。間違いなく回復しているッ!分かりませんがその魔獣、再生力を持っているみたいですっ!」
再生力?
そいつはおかしいな。
crystalEdgeにsapphireRaid、そして死地歩ム無貌ノ葬列。全部をぶつけたがどれも手ごたえに違和感があった。攻撃を通しての再生ならまだわかるが、そうじゃない何かがある。直感がそう告げていた。
戦闘が始まって十分が経とうとしていた。ひとまずは装甲が薄い項、首元、脇、鳩尾、関節部分と攻撃をぶち込んでみたが、その全てに気持ちの悪さが感じられたのだ。一か月の修行は伊達じゃない。以前であればここまでの動きを披露したなら、既に体力も切れかかっていたことだろう。
冷静に回る頭で思考する。
何かタネがある。風太にはそう感じ取れた。




