気鋭の双子と黒い天災2
勇璃と知瑠の前に現れたのは巨人の様な魔獣。現れた原因は不明、この巨体を今までどこに隠していたのかということも不明と来ている。
魔獣の外見。ところどころ甲羅の様な装甲の硬質さを感じさせるフォルムではあるが、動物に例えると二足歩行状態のゴリラのような感じだろうか。大きさは三メートルを超え、四メートルにも迫りそうなほどの巨体だ。戦う術のないものからしたら、文字通り悪夢のような光景だろう。
全力を込めた勇璃の攻撃は全く通らなかった。姉である知瑠は痙攣を繰りかえすだけの満身創痍の状態。装甲に覆われていない部位、攻撃する箇所によっては攻撃が通る急所のようなものはあるかもしれないが、そもそもの実力差があり過ぎる。知瑠を庇いながら弱点を狙い撃つことなど到底不可能だ。
しかし、目の前に起きていることこそが真実。どれだけ悪夢のような状況だとしても、軋むこの胸の痛みこそが現実である証拠なのだ。
思えばこの魔獣は通常の個体とは少し性質が違ったのかもしれない。というのも魔獣の性質でもある生命を害するという行為をそっちのけに、ビルの破壊を始めたからだ。
だから、判断を間違えた。
相手の力量を見誤った。
新進気鋭と持て囃されて、どこかで浮かれていた。
自分が敵わない相手などいないと井の中の蛙の如く、慢心していた。
だから、これはその報いかもしれない。
「ッ!?そこの魔獣!待ちなさいッ!」
「は?魔獣?なんでこんな街中に?」
「姉さん、サポートお任せしますッ!」
「あ、おい!ちょっと!勇璃っ!」
突如街中に現れた魔獣。増え続ける被害を考え、一刻も早い対処が必要だと考えたわたしは一目散に魔獣に向かい、必殺の一撃を加えた、つもりだった。
驚くほどに強固なその肉体に対して、わたしの一撃は全くといっていい程に効果が無かったのだ。例えるならコンクリートの地面を生身の手で殴りつけたような、こちらだけにダメージが跳ね返るような感覚。
魔獣にとっては取るに足らない存在。しかし、自身にまとわりつく蠅の存在が許せなかったのだろうか。こちらに目を向けると、その長すぎる腕で渾身のストレートを放つ。
「っく!」
わたしは異能 空天闊歩『Variable walk』の力により、咄嗟の判断で空気を蹴りつけ、軌道を変えながら攻撃を避ける。しかし、魔獣の反応は凄まじく疾く、二の矢三の矢と矢継ぎ早に腕を交互に伸ばし、マシンガンのようにストレートを繰り返す。その雨のような拳の連打は身体を少しずらしただけでは、とても間に合わない程だった。
そんなわたしと魔獣の間に入って、攻撃を受けてくれたのが姉さんだった。考える間などなかったのだろう。だって、たぶんわたしでもそうしていたから。姉さんは瑞獣棍を構え、身体を滑り込ませるように割って入ると、受け流す形で手元の棍を回転させた。けれど。
「――――がッ!?!――――ぶッ!?」
一撃、受け流すように持っていた棍が吹き飛ばされる。二撃、体勢を崩した無防備な下半身に直撃する拳。三撃、悲鳴を上げようとした喉ごとお構いなしに殴りつける。それから先は数も数えられない。一瞬のうちに数十発という拳を浴びた姉さんの身体は跳ねるように宙を舞い、意識を失った腹筋ごと向かいの壁まで突き飛ばされたのだ。
声を失った。
こんなことならわたしが。
いや、そんなことは言ってはいけない。身を呈してわたしを守ってくれた姉に対して、かけていい言葉じゃない。
重傷の姉を抱えたまま逃げ切ることなんて可能なのだろうか。いや不可能だ。あのスピードを目の当たりにしてそんなことが出来ると思えない。万全の状態のわたしでもたぶん、無理。
なら、わたしが願うのは一つ。あの魔獣が瀕死のわたしたちに対して、弱者を甚振るのは興味が無いと、興味を失ってもらうことを祈るだけ。わたしたちに構わずに、どうぞビルの破壊活動を続けてくださいと、情けなく頭を垂れて懇願するだけ。
そんなことならば、軽い気持ちで立ち入るではなかった。けどそれは後の祭り。
「グゥウゥうぅ」
目の前には魔獣。抗うことの意味が頭の中で駆け巡る。こんなバケモノを相手に何をどうすれば良かったのかと。街が破壊されていく様を、何食わぬ顔で傍観していれば良かったのか。自分の身あってこそとは言うが、それもきっと違う。だって、人々を守るのがわたしたちの仕事なのだから。
まるで答えの無い問いを延々と考えさせられるようだ。軽い考えで物事を考えるべきじゃない。自分に出来ることだけを淡々とこなせばよかったと。それだけで十分に幸せだったと。
それで――よかった?




