気鋭の双子と黒い天災
風太は手のひらの魔装が消えたことで、魔装での脳内通信が途切れたと考えていたが実際は違う。この魔装は東川ランジが独自の解釈で創り出した電気属性の魔装の変則式。術者の裁量により、魔装が消えた後も、相手の思考を数分間(距離で変動はするが最大で三分程度)読み取ることが可能だった。
「もう聴こえない、ですね。へえ、なんだ。脳味噌入って無いような顔してるわりには、意外と考えられているじゃないですか。人は見かけで判断しちゃいけないって、兄さんの言葉もたまには当たるもんですね」
足元がくしゃりと音を立てる。地面に生える雑草をぐりぐりと力を込めて踏み躙る音。それは何故だろうか。愉悦と共に憤怒の感情がそこには在った。想定外に直面した好奇と、思い通りにならなかった苦汁。二律背反の薄汚い淀み。
(まあでも、一見での個人的主観からでしかありませんが、勝てない相手に何の策も無しに突っ込むような阿呆でもないでしょう。なら、あの魔獣に対応できる何らかの算段があるという事。正面から向き合うのは得策じゃあないでしょうね)
もう一度力を込めて地面を踏み躙る。周りに生え並ぶ木々が少しざわついた気がした。
それは男の狂気に当てられたからだろうか、気弱そうに垂れ下がった目尻と眼光からなる悪魔のような表情は、まるでこの世の狂気を代弁するかの如く鋭利な三日月を描いていた。
「ぐッ!がお゛お゛お゛ッ!」
大きな音と共に小さな人影が、ビルの側面に叩きつけられ亀裂をつくる。支えを失った人影は力なく地面に倒れ込むようにどさりと崩れ落ちた。
「__姉さんッ!」
土煙を片手で払いながら、倒れ伏す人影に駆けよる長身の女性が一人。
「悪い、しくった。何だよ、ありゃあ」
「し、知りませんよ!それより、身体は大丈夫なんですか!?」
「大丈ぶ……だと、良いかなぁ……ごほっ、正直……動けん。いかん音がした」
「__ッ!」
わたしは警察官であって警察医ではない。だから、最低限の応急処置程度の知識しか持ち合わせていない。吐血もしている、脈も荒い。きっと内臓のいくつかも潰れているだろう。
そんなことより消え入りそうなこの表情。姉さんの症状は見なくても解るほどに重傷。絶対安静というやつだ。きっとこんな時、体を揺するような、少しでも衝撃を与える行為は間違った選択なのだろう。
この場にまともな知識を持ち合わせていないわたししかいない以上、最良の選択はこの場で応急処置をし、救急車の到着を待つ。これしかないのだ。
そうしたい。今すぐスマホを片手に助けを求めたい。たった一人の姉を助けてくださいと。誰かがわたしたちに縋ったように、わたしも縋りたかった。けどそれは出来ない。
わたしは姉さんの身体をゆっくりと起こし、出来るだけ負担に掛からないよう、配慮をしながら背中に抱える。
砂煙に紛れて黒く大きな影が、こちらへとゆっくりと近づいてくる。それに混じり小さな人影が、蜘蛛の子を散らすように去っていくのが視える。住民はできるだけ避難させたつもりだが、まだどこかから悲鳴に似た声が聴こえる。それは突如現れた天災とも云える、黒く大きな魔獣から逃げ遅れた人々。
けど心の中で少し安堵した。どうやら目の前に迫る魔獣は逃げ果せるだけの力無き者は眼中にないらしい。随分と武人気質の魔獣のようだ。
これで話が通じればまだ何かと手はあったのかもしれないが、原則として魔獣に対しての意思疎通は不能だ。在り方は理解できても、その真意までは到底理解が及ばない。
じゃあ、一方的に蹂躙されている、わたしたち弱者も見逃してくれないものかと、心中で悪態と云う弱音を吐く。




