東川ランジという男2
「畜生、今度はなんだッ!?」
風太は音のする方に振り返る。煙が立ち込めていたその場所は平塚市郊外の公園だった。
____ズキリ
と脳内に何かが刻まれる。
『工藤風太さん。今あなたの脳内に直接声を語りかけています』
脳内に直接響く声。ぐらりと揺れる浮遊感。その声と共に、周りの喧騒が一瞬だけシャットアウトされたような不思議な感じ。そう、一般的にいわれている眩暈のような感覚だ。
(この声は、さっきのヤツ。もしかしてこの魔装のせいか?)
風太は頭を片手で抑え、苦い表情を作りながらもう片方の手のひらを確認する。案の定魔装紋が淡く光を放っていた。確信する。間違いない、脳内に話しかけているのは先ほどの男だ。
『はい、先ほどの男こと、東川ランジです!』
「て、てめえッ!考えてることが筒抜けになってんのか!?」
口に出したつもりはない。脳内の声に対して考えを巡らせただけだ。
『はい、ですから口に出して喋る必要はありません。先ほどは誰かに監視、というよりも洗脳に近い干渉を受けていました。なので奇人を装い、周りに悟られないよう、ああいう形を取るしかなかったんです。ですが、もうその必要はないかもしれませんね』
は、どういうことだ?
『洗脳の効果が消えたようなのです。能力を解いたのか、範囲が縮小し維持が出来なくなったのか。もう監視されているような感覚はありませんし、あなたの方も、変な閉塞感のようなものが消えていると思います』
確かにいわれてみればそうだ。さっきの爆発音の後、身体を抑えつける様な感覚が消えている。もしかしてあの感覚こそが洗脳だったのだろうか。
『たぶんそうだと思います。あなたも僕も洗脳に対しては少しばかりの耐性があるみたいですね。あなたが平気だったところを見ると、洗脳に掛かった振りをする必要はなかったみたいですけどね、ははは』
笑い事じゃない。人が行きかう街中でそんなヤバいことが行われているなら、放置していい事案じゃない気がするが。この東川ランジという男は思ったよりも楽天的なのかもしれない。
『あ、失礼しちゃいますね、楽天家なんて!と、すみません無駄話を。もう魔装の効果が消えかかっているみたいです。では、最後に一つだけ。今の音、恐らく魔獣です。それもかなり危険な個体じゃないかと思います』
何でそんなことが分かるんだ、と疑問はあったが、あれだけの爆音だ。このご時世、爆音の正体なんて十中八九魔獣の咆哮だ。何にせよ聞いてしまったのだから見て見ぬ振りは出来ない。力になれるなれないは現場に到着してから考えればいいことだ。
『え、向かうんですか?僕は逃げたほうが良いと、注意喚起としてお伝えをしたつもりなのですが』
生憎オレは魔獣狩りなもんでね。デケェ魔獣はネギ背負ったカモにしか見えねぇんだわ。忠告してくれたことには礼を言うが心配はいらねえよ。何も問題は無ぇ、お前は逃げればいい。
『……分かりましたよ。気を付けてください。これもご縁だと思って忠告したのに。もうあなたの心配をするのはコレきりにします。僕は逃げますので。それでは、ご達者で』
そう言い終わるとほぼ同時に、脳内に響いていた男の声が聴こえなくなった。
「つか、マジで何だったんだあの男は」
あの男は洗脳に耐性があり、洗脳をしているヤツに気づかれないように奇人を装っていたと言った。能力がどれくらいの規模か分からないから何とも言えないが、街中だ。少なくない人数を対象に洗脳を行っていたとみていいだろう。
加えてあの男は閉塞感を感じており、結界の様なものが展開されていることにも気付いていた。なら、奇人を装ったまま能力の範囲外に抜け出すことも可能だったはずだ。
おかしい。何のためにオレの手のひらに魔装を写したのか。わざわざオレに声をかける必要性なんかなかったはずだ。いったい何故?
風太は音のした方角に駆けながら考えを巡らせるが、いくら考えようともその答えが見つかることは無かった。




