狼と子犬2
「なるほどな。テメーのオヤジが帰ってこない理由を魔獣の仕業って考えてるってワケか」
ある日の晩、とはいっても数年も前。いつも帰ってくる時間に父親が帰ってこなかった。取引先との関係もあるからたまたま遅れてしまっているんだろうと、母親は心配そうな顔をして落ち込む息子をあやした。しかし、その日を境に父親が帰ってくることは無かった。警察にも届け出をしたが進展は無し。他に理由は何も分からない状態。
昔より閉鎖的な現代では、気軽に旅行を楽しむ人もほとんどいなくなった。学校の遠足では、遠足といいつつも近場を出歩くだけ。学校によっては遠足自体が無いところも少なくない。地区の外、外部に出ることを極力避けるようにしているのだ。
しかし、社会人もそうかといわれれば別。外交が全くない状態では流通もままならない。だから、地区を出て外に出る仕事というものが無くなったわけではない。だから、外の地域まで仕事に出かける人たちが、魔獣の被害に遭うケースは決して少なくないのだ。警察に関しても二次被害が起きないよう、捜索に関しては消極的な姿勢である。
上辺だけを聞いただけだが、家庭が別段裕福であったわけでもないようだ。連絡も全くないと考えると、この少年の父親も魔獣の被害に遭ってしまったと考えるのが妥当だろう。
「テメーじゃないぞ!おれには虎太郎っていう名前があるんだっ!白いトゲトゲ!」
「んだよ、白いトゲトゲってよ。ボキャ貧ってレベルじゃねえぞ。あのサイコヤローでもウニ頭とかマシなレベルだったんだが」
「んじゃあウニ頭」
____ゴチン
「いってっぇ!何するんだよ~!」
しかし、随分と生意気なガキだ。父親は知らないが、母親には随分と甘やかされて育ってきたように思える。父親に関しては正直手立てはない。
探してやりたい気持ちが無いわけではないが、オレが出来ることはなさそうだ。とりあえずこのガキを母親のところに連れて行ってから、俺も千寿流たちのところに向かうとするか。
「おい行くぞ、ガキ。この時間、どうせ小学校を抜け出してきたんだろ。母親んとこ連れて行ってやるからついてこい」
オレは少しの苛立ちの気持ちを隠しつつ、虎太郎に声をかける。こういう生意気なガキには、しっかりとした大人が必要だがそれはオレの役目じゃない。だが、言葉を返してくるどころか、その場から一向に動こうとしなかった。
「おい、行かねえのか?っち、別にオレは構わねえが。学校サボんなよ」
そう言って風太は背を向けこの場を後にすることに決める。そのまま数歩歩き、虎太郎の様子を伺おうと肩越しに視線を向ける。この少年とは何の関係もない、むしろ風太は被害者といえる。
だから、このまま帰っても文句を言われる筋合いはないのだが、放置するのもなんだか置き去りにしたみたいで後味が悪いと感じたのだ。
「うぉおぉおぉ~!っく、クソぉ~!殴らせろぉ~!」
背後から声を上げて走ってくる少年の頭を押さえて制止させる。さっきみたいな醜態を晒して堪るものか。
「っ、クソガキッ!何なんだテメエはさっきから!」
「ウニ頭、さっきおれのこと殴った!だからおれにも殴らせろ!やったらやりまくれってエレクトロレッドも言ってたもん!」
「テメェは先に殴ってんだろッ!」
というかエレクトロレッド?なんだソレは。大方休みの日の朝にやってる戦隊ものの一人の誰かなんだろうが「やったらやりまくれ」ってのはなんなんだ。子供に悪影響が出そうなセリフだな。いや、現に出てるんだが。
「お前、魔獣だろ!エレクトロレッドも言ってたぞ!お前、目つき悪いし悪者だろ!」
ヤバい。殴っちゃいけないのは分かってるんだが、本気で殴りたくなるってのはこういう事か。たまに子供の体罰とかがニュースになったりするが、こういう手合いは、言っても言っても、説いても説いても意味がないから体罰問題になるってのは気持ち分からなくもないぜ。
「ガキ、お前どうしてえんだよ」
「殴らせろっ!」
「違っげーよ!テメエのオヤジのこと、どうしたいんだって訊いてんだ。オレもお前に付き合ってやる気はねえが、そこんとこの話ぐらいは聴いてやるよ」




