魔獣の本質
肌で感じるとか、そんな感覚的な話じゃない。近頃魔獣のレベルが上がってきているのが、事実として実感できた。
さっきの熊のような形をした獣型の魔獣。上半身が異常発達していた上に大型ということもあり、アジリティ自体はそこまで出なかったものの、その分フィジカルに重きを置いたタンクタイプだった。
以前のオレであったのであれば、ここまで早期決着は望めなかっただろう。もちろん負ける気など全く無いのだが。
小さな魔獣なら一般人でも退治するまで行かなくとも、対処ぐらいはできるかもしれないが、あそこまでのバケモノとなると話は別。逃げるという選択以外残されてはいないだろう。幸いここは人里離れた無人の地。あの熊による被害自体は出ていないはずだ。
魔獣はその構造自体が生物のそれとは異なる。見てくれ自体は既存の獣や人間を模したものは多いが、中身は全く別ものであることがほとんどだ。
犬型の魔獣で例えるなら、アイツらは口や牙と云うものが存在するものの、生物でいうところの消化器官と云うものはない。つまり、捕食行為を行うものがいたとしても、それは栄養を取り入れる行為ではなく、あくまでも純粋に人間を害する事を考えてだけの行為でしかない。というわけだ。
中には人語を介したり、取り込んだ生物を操ったり、体の一部として奪ったり、繁殖のために苗床にするといった行為を行う個体がいるかもしれないが、それは非常に稀なケース。少なくともオレが出会ってきたヤツらにはそういった類のヤツはいなかった。
廃病院の地下で出会った分裂する魔獣や砂漠での巨人型は相当にレアなケースと云えるだろう。あんなものが街に押し寄せてきたらその街は壊滅しちまうだろうな。
しかし、先にも言ったように魔獣のほとんどは捕食行為を行わない。言い換えれば積極的に人間を害するということは行わないのだ。
だから、廃病院の底を縄張りとしていた魔獣は地上に出てくることは無かったし、砂漠にいた魔獣も街に向かってくることは無かった。あくまでもオレたちが縄張りに足を突っ込んだから自衛のために応戦しただけ、ということになるだろうか。
いや、魔獣の本質は人間を害する事。どこの誰が決めたのかは知らないが、そう定義されている。目の前に人間が現れたのなら、何の思考も理性もなく、ただ本能に従って蹂躙するのだろう。
アイツらは元が吸血鬼やゾンビみたいに元が人間だったとかいう事も無い。ただそこに存在するだけの絶対悪。能天気な千寿流はもしかしたら魔獣とも話し合えば分かり合えるかもしれないとか抜かしていたが、そんなことは絶対にあり得ないと断言できる。
仮に分かり合える望みがコンマ一握り、大海の一粟程度あったとして、ぐだぐだ説いてる間に身体が無惨に十六分割されてしまうだろう。手枷をした犯罪者に高説垂れるのとはわけが違うのだ。檻に閉じ込められて対面した、空腹状態のライオンを説き伏せることが、いったいどれだけの人間に出来るというのだろうか。
何でか分からねえが、ああいったバケモノ級 (能無しの一般人が束になっても対処できない個体をそう称する)が人間が住む街中に現れるという話はあまり聞かない。
だがそれも時間の問題。
魔獣はこうしている間にも年々増え続ける傾向にある。そうなれば必然、魔獣が魔獣の住処を奪い合う。なんてことにもなるかもしれない。もしそうなってしまえばどうだ?縄張りを追われた弱者から人の住んでいる地域になだれ込む。それを追い返す人間。それの繰り返しだ。
そうならない為にもオレたちの様な魔獣狩り。ギルド、リベルレギオンといった組織が作られた。レギオンでも頂点に立つと云われる七師団。
強欲 団長『君島灸』
怠惰 団長『恋雲恋』
憤怒 団長『荒木芳也』
そして、オレの姉、暴食 団長『工藤風花』
七つの大罪を冠してるとするのなら、傲慢、色欲、嫉妬。あと三人は少なくともいるって話なんだが、なにせレギオンってのは万年人不足って聞く。なら、空席のままってことも十分にあり得る話だな。
姉貴の団に暴食なんて名が付けられているのは笑っちまったが、それは姉貴の全てを飲み込む異能、無失風譚『Zero collapse』の能力によるものだろう。
まあ、普通の女と比べると食べる方だが、それでもその程度。暴食ってだけならフェルメールのほうがよっぽど似合ってるしな。




