禁忌2
初とメルルは後日、再び件の廃村を訪れていた。
子犬に関してはあのまま放っておけるわけもなく、かといってホテルに預けておくことも出来なかったので、こうして近場で首輪を購入し連れて行くことにした。
「ところでさ、なんで、警察に届け出なかったんだ?」
「……」
何で届け出なかったのか。自分でもよく分からない。辺りを見渡して探してはみたが、特に返せるような理由が見つからなかった。別に情が移ったわけでもない。
ない、と思う。けど、どうしても返答をしないといけないと言われたのであれば、情が移ったんだろう。それぐらいしか理由がなかった。
「ま、子犬ってけっこう可愛いし、別にあたしはどっちでもいいけどさ。あ、あとその首輪の小さな鍵みたいなやつ、持ち主の家の鍵とかじゃないのか?もしそうだとしたら」
「ん」
子犬の首には首輪をつける前にも、別の汚れた首輪が付けられていた。そして、その首輪には小さな鍵が付けられていた。チェーンが付いた首輪をつける際に外してあげようと思ったが、急に豹変したように後退り、低く唸るものだからそれ以上無理をするのを止めたのだ。
「あたしはこの鍵、家の鍵なんかじゃないと思うわよ」
「そうなのか。何でそう思うんだい?」
「別に難しい話じゃない。いくら溺愛していると考えても、自分の家の鍵を飼い犬の首輪になんか付けないでしょ。ふとした拍子に千切れて無くなってしまうかもしれないし、普通に考えたらあり得ない」
「はあ、なるほど。まあ、確かにそうかも。あたしはてっきり昨日の火事の時、子犬ちゃんが見つめていた先に、飼い主の家があるんじゃないかと思ったんだけど」
「その可能性はあるかもしれないけれどね。この鍵自体は何の意味も無い、ただのアクセサリーだと思う」
あたしはそう結論づける。そう考えた時、昨日この森で出会った軍人崩れ集団は一体どういった連中だというのか。その答えが薄っすらと見えてくる気がした。
「この子犬は昨日の連中が囲っていたもの。昨日の火事、子犬の視線、そして首輪の小さな鍵。あの連中は法を犯したあたしたちを捕まえに来た軍人なんかじゃない。むしろその逆、アイツらも法を犯した側の人間。あたしたちと同じってことよ」
「ははっ、同じ穴の狢でも、あんな奴らと同じカテゴリーなんて勘弁してほしいもんだね」
メルルは乾いた笑いと共にそう言った。
「うん、昨日とまったく変わらないな。あたしたちが付けた足跡がそのまま残ってる。やっぱり昨日の連中は軍とは全く関係ないみたいだね」
昨日あたりを付けていたところまで一直線にやって来た。もう一度確かめてみるが、やはりこの部分だけ他の地盤より微かに柔らかい。目的のものでなかったとしても、何かが掘り返されていることは間違いないだろう。
初は子犬がどこかに行ってしまわないようチェーン部分を近くの柱に括り付け、腹を空かせないよう餌を用意まですると、あらかじめ用意しておいた手ごろなスコップを取り、掘り返すことにした。
二時間ほどが経過していた。そろそろ休憩を挟もうかと考えていたその時だった。
____カチン
メルルが突き立てたスコップの先端が、何か硬いものに当たる。
「お」
「結構深かったわね。ここまでするってことは可能性も高いってことかもね。そろそろ休憩を挟みたかったところだけど、また変な横やりが入ったとしても面倒ねさっさと終わらしちゃいましょ」
地中深くに暗く閉ざされていたゴールが見えたことで、疲れも少しばかりだが吹き飛んだ。延々と終わらないマラソンってのは精神的にも肉体的にもきついが、目指すべき目標やゴールがあるのならばそこに向かって突き進むだけだ。
ゴールは見えた。急ぐことは無いのだ。手に力がこもり、服の中を滴る汗さえもじりりと熱くなっていくような気がした。ひょんなことで砂が崩れて出口を塞いでしまわないよう慎重に、けれど相反する焦る気持ちを抑えきれず、心なしか作業の手が早くなるのを止められなかった。




