ざわつく森にて3
地を蹴る音がする。音がしたと思った時にはその巨体は既に目の前に迫ってきていた。罠も反撃も考慮しない戦車のようないさぎの良さ。
そんなバーサーカーのような戦い方を可能にしているのが、先ほど本人の口から開示された異能 豪腕『Clad Unrivaled』。小細工を弄してもあの鋼の肉体の前では無意味なわけだ。
異能の開示は何も相手に能力をひけらかすだけが目的じゃない。互いに能力の内容を共有し、奇跡を共通認識することで性能を何十倍にも底上げできるのだ。
その中には全く別の性質に変化するものもあるといわれており、その真偽は定かではないものの確固としたアドバンテージの為であるものは確かだ。
(あの男は自身の実力、異能に絶対の自信があるタイプだ)
中にはそれを逆手に取り、嘘を織り交ぜることで巧妙に相手の裏をかく、という戦法を取る者もいるが、心底楽しそうにしている顔を見るとこの男に関してはその線は薄いだろう。もちろん、ゼロと可能性を捨てきることは出来ないが。
「危ないねえ、あとちょっと反応が遅かったら攻撃かすってたよ。儲け儲け」
「随分と余裕かましてくれるじゃないか姉ちゃん。あとよ、かすったらそのまま持ってくぜ?避けるんなら全力で避け続けな?逃げ遂せるってんならそれでもいい。俺様はその無防備な背中を抉り剥いで喰らうッ!」
目を血走らせながら物騒なことを言う。この男には目的も訊いておきたかったが、大人しく従ってくれるたまではないだろう。
無敵の肉体とは言ったが、それはフィジカルだけではない。身体の強化から来るアジリティの向上、それに伴うパワーの増加もある。かすったら終わり。それははったりでも何でもない。文字通り触れられたら終わり、只では済まないだろう。
「あの木偶の坊と真っ正面でやり合うのは流石に賢くない。いったん身を潜めるぞ」
「けど、アイツには部下もいるのよ?そんなに素直に逃がしてもらえるかしら?」
「いや、それに関しては大丈夫だ」
そう言いながら、メルルはにやりと余裕を見せ大男を見据える。
「ん?なんだ?もしかして後ろにいる奴らが気になってるのか?安心しな、俺様の指示があるまでアイツらは動かない。勝手に動いたら自分の首が飛ばされるって解ってるからな。もちろん、お前らとの戦いに決着がつくまで、俺様はアイツらに指示を一切出さないことを誓おう」
なら、部下をわざわざこんなところまで連れてくる意味があるのか?そう思ったが、そもそもよく視れば、こいつの服装、軍人のように見えて上下も揃っていない。おまけに、従えていた部下との関係はそこまで良い物とはいえなさそうだった。
薄暗くてはっきりとは分からないが、もしかしたらたまたまこの地に足を踏み入れた酔狂者の集まりかもしれない。
予想通りなら、さしずめ野良の魔獣狩りってところか。魔獣狩りとして生計を立てるついでに、面白いものに飛びつくならず者みたいな集まりだろう。
「それを鵜吞みにするとでも?」
「知らねえよ。言えることは俺様は嘘が嫌いってだけだ。信じるも信じないもお前らの勝手だ。」
男はそう言いながらこちらに向かって走り、徐々にスピードを上げ、核弾頭のように突っ込んできた。
「初ッ!」
「ええっ!」
メルルの声を合図に一斉に飛び退く。『部下は手を出さない』この言葉を信じるのであれば、別々の方向から挟撃を仕掛けたほうが良いと考えた二人は二手に分かれることにした。
先ほどの一撃と今の一撃で相手の動きは大体読めた。車と同じ初速は遅く、次第にスピードを上げ、数秒で最高速に達する。初速の段階での方向の転換は多少行えるようだが、速度が上がり切ってから方向転換は不可能。
なら絶えず動き続けていれば、この攻撃は間違っても喰らわない。予測され偏差的な攻撃をされたとしても、こちらは自由に動けるのだ。別に問題でも何でもない。
「あとはご自慢のあの鋼の肉体をぶち破ってやればいいだけ。なんだ、別に難しい事じゃないわね」
二手に分かれる刹那、メルルが投げた鞘袋を空中で掴み取る。紐を解けば、現れるのは黒塗りの鞘。鯉口を切り、親指で鍔を弾く。夜気を切り裂くような金属音。初は鞘を放り投げ、月光の下で冷ややかに笑った。




