ざわつく森にて2
「俺様の異能名を教えとくぜ。豪腕『Clad Unrivaled』、俺様の無敵の肉体は馬鹿デカいロケットランチャーが撃ち込まれても傷一つ付くことは無い。文字通り無敵を身に纏う者だ。試してもらっても構わないが意味は無いぞ?」
無敵の肉体。つまり身体能力の強化か。頼んでも無いのにべらべらと、何とも手間のかからない男だ。
いや、異能の開示か。ブラフの可能性も考慮できるが、あの男の言う通りだとすれば生半可な攻撃は通用しないということになる。
ロケットランチャーなんて創作物でも見たことがないし、いったいどれほどの破壊力があるのかもわからないが、あの不敵な笑みを見るからに相当な自信家には間違いないだろう。
ならば。よし、試してみようか。
「ふん、訊いてもいないのにそんなこと言うなんて、はったりならもう少し分かりにくくしたほうが良いわよ?図体に栄養が行き過ぎて、脳味噌が足りていないんじゃないかしら?」
言葉を言い終える刹那。騒めいていた森がより一層騒ぎ立てる。初とメルルが立っていた地面が、拳を振った様子もないのに丸くいびつな形に抉られていた。
「初、お前なあ。挑発するならもうちょっと相手を選んでくれよ。アイツ、マジもんじゃないか」
「ご、ごめん」
額に滴る汗をぬぐいながら、あたしは相棒に謝罪という名の感謝の言葉を返した。
メルルがいち早く反応して抱えてくれなかったら、今の一撃であの世逝きになっていたかもしれない。あの見た目は伊達じゃないということが分かったが、気の短さもどうやら一級品の様だ。
「っははは!ガキの方は見たまんまといったところだが、そっちの長身の女は少しはやるようだな。それにどうやら親子ってわけじゃあなさそうだ。っくくく、保護者ということには変わりはなさそうだがなぁ?あん?」
あれだけあからさまに視線を送られれば誰だって分かる。口先だけで一歩も動けなかったあたしへの嘲笑だ。悔しいけれどそれは事実。でも、ここで言い返すことを止めたら気持ちでも押し負けてしまう。それだけは違う。
「はん!勝手に言ってなさいよ木偶の坊。メルルとあたしは相棒の間柄よ。今の一撃であたしを仕留めきれなかったのは、あたしの言葉だけに気を取られて、メルルの存在を疎かにしたあなたのミスでしょ?間抜け面」
「あ?」
男の表情が変わる。辺りは暗く距離も少し離れている。なので実際には視えないが、その低すぎる声色から眉間に皺が寄っていくのがこの暗がりでも伝わってくるのだ。
あのガタイだ、きっとその般若の如き形相を間近で視たならば気圧されてしまうかもしれない。暗がりで助かったと思うことにでもしておこう。物事は常にポジティブに考えておく方が楽だから。
「ガキ、お前の異能は何だ?」
「は?なんで能力者だと思ったの?」
「そんなことは決まってる。そうじゃなければそこまで大見得が切れるものか。俺様の力を目の当たりにして泣き叫ばない、それだけでお前がただのガキじゃないことぐらいは解るんだよッ!」
物分かりの悪い初に対して苛立った男が、横に生えている大木を拳で叩きつける。
「理由になってない。何で決めつけることが出来るのか?その理由になってない」
あたしは男の方にゆっくりと歩みながらそう言った。
「っは!くくく、あははははッ!そうか、そうかよッ!隠し通すってんならそれもいい!それも戦り方!別に互いに能力ひけらかして品評し合うお遊戯会じゃあ無いもんなぁ!?」
男が一層高らかに笑う。何がそこまで可笑しいのか。初には何一つ理解できなかった。
横で「おいおい、火に油を注ぐなよ」という表情をするメルル。だから初は心の中でもう一度だけ謝っておく。けど、「そっちの方がやり易いでしょ」と初は小さくウインクを返した。




