禁忌
カフェを後にした二人は二時間ほど公共機関を乗り継ぎ、とある森の奥、廃村の集落に足を運んでいた。
地図アプリで確認してみるが、この辺りの情報は全く得ることが出来なかった。小一時間ほど歩いてみたものの、村に住んでいた人間も既に全滅しているのか出払ってしまったのか、人気を全く感じられなかった。いわゆる秘境というやつかもしれない。
「秘境、とはいっても人っ子一人もいないとはね。廃村とは聞いてたけど、村自体はそこまで荒らされてるって風でもない」
それが逆に不気味に感じられた。人が住めなくなった理由が何なのか、一見では分からない。魔獣の仕業か、人間の暴徒化か、どちらにせよここまできれいな状態で残っていないだろう。なら、もっとほかの原因があったのかもしれない。
「人がいない分には都合が良いだけじゃない。それにあたしたちが考えている通りなら、人が住んでいるはずもないんだから」
そうなのだ。この村には観光に訪れたわけでも、取材に来たわけでもない。もし村人がいたのなら「なんなんだアンタらは、出て行ってくれ!」と追い返されてしまうような、そんな後ろ向きな目的なのだ。
それで目的を断念するつもりも毛頭ないが、余計な諍いが起きないことに越したことはない。
街で得られた情報ではこの辺りで昔大規模な工事を行うため、何台ものトラックが連日出入りしていたということだけ。
それらは地元民に訊いてみても実際に報道されることは無かったというし、何か後ろめたいことを行っていたのは明白だった。
実際問題、村を一通り回ってみてもトラックが何台も必要になりそうな工事跡は見受けられなかったし、それどころか、まるで村全体が時間に取り残されたように、その静寂が一層異様な雰囲気を醸し出していた。
「これはさ、本当にここで工事なんてやってたのかって、思うよね」
「工事は本当でしょ。ただ、表立って公にして良いようなものじゃないってことは確かね」
村興しの為にいろいろとやっているという噂もいくつか耳にしたが、村の実態を実際にこの目で視てしまうとよく解る。単純明快、その噂とやらに関しては全くのデタラメであることなど明白だった。
初とメルルは飛び回る虫を手で払いながら“あるもの”を探し続けた。それは巧妙、幾重にもカモフラージュが重ねられ、秘匿された異端。触れてはいけない禁断の果実。だから、極刑。法治国家でもあったこの日本ではそれ等に関するあらゆる干渉、関与、利用が禁止されていた。
魔獣による蹂躙、能力者による反逆など、荒れ果てた今のこの日本で、法律というものがまともに機能しているかといえば難しい話にはなるが、危険な能力者を専門に処断する執行部隊が国家にはあるらしい。
実際に見たことがないからその真偽は定かではないが、『見たことがない』ということは『いない』ということでもある。ならばそれは、増えすぎた能力者に牽制をかけ、抑制するためだけのお国総出の法螺話かもしれない。
もし本当なら、今すぐにでも屈強な男どもが寄ってたかって二人を取り囲んだっておかしくないのだ。二人はそんな異端の側面に足を踏み入れようとしているのだから。
「お、これはビンゴってやつかな?ここの地面、わずかにだが他よりも柔らかい。いっぺん掘り返してみようか」
額に流れる汗をぬぐいながらメルルがそう言った。
この村に足を踏み入れてから四時間ほどが経過している。思ったよりも時間がかかってしまったせいか、日はすっかり暮れてしまっており、このまま作業に入ってしまうと、明け方まで掛かってしまうのは明らかだった。
早いことに越したことは無いが、それは出来れば避けたい。ここは廃村、インフラといった設備とは無縁の場所。当然の如く、この辺りには街灯がないのだ。
何が起きるか分からない以上、不安となる要素は出来る限り排除しておきたい。
「いえ、一度出直しましょう。場所が分かっただけでも大収穫よ」
「オッケー。正直言うとあたしもさっさと帰りたいと思ってたところだよ。とりあえずメシより風呂だな。服が体に引っ付いて最高に気持ち悪いんだ」
本格的な探索は明日以降。二人はそう決めると踵を返し、元来た道を帰ることに決める。その帰り道。
「なんだ、女二人か。それも一人はガキだな。だが、面白い。収穫無しとは思っていたが少しは楽しめそうじゃないか。子連れのバックパッカー、なんて冗談は言ってくれるなよ?」
誰もいない筈の山道に、低く通りの良い声が聴こえた。




