初とメルル
「なあ、初。これ酷い話じゃないか?市内で二十四人が死亡だってさ。それもどれも体があべこべにつぎはぎ人形みたいに縫い合わされてたらしいよ。おえぇ、モザイクだらけだけど、何か想像できちゃうなあ」
初はメルルのスマホに映っている動画に目を向ける。苦々しい顔をしたリポーターと思わしき人物が、身振り手振りを加えながら克明に現場の状況を伝えていた。
「ふぅん。悪趣味ね。魔獣の仕業?」
「いや、どうなんだろ。そこらへんまだ追ってるみたいだけど、仮にこんな魔獣がいたとしたらそれも報道されるんじゃないか?」
「つまり人間の仕業ってこと?」
「たぶん」
初とメルルはとある喫茶店で軽食を取りながらスマホの画面を共有していた。メルルは食事時にする話題ではないと頭ではわかりつつも、あまりにも衝撃的すぎる内容に話さずにはいられなかったのだ。
画像や動画はモザイク加工だらけではあるものの、そこから伝わってくるリポーターの生々しい表情や表現などから間接的にどういった惨状なのかが見てとれた。
「人間が人間を手に掛ける。何が目的なのかな?」
「初、アンタの探してるもんとは関係ないんだよな?」
「ふん、悪趣味は悪趣味でもベクトルが違うわよ。何にも関係ない。けど、見ていて気分の良い話じゃないわね」
「ああ、全くだよ。リポーター様様だな。こんなのも報道しないといけないなんてイヤな世の中だよ」
そう言いながらメルルはスマホの画面をスライドさせ動画を閉じる。まだ一口も手を付けていないというのに、せっかくのケーキの味が落ちてしまったように感じられた。
こればっかりはどうにもならない。見たのは数十秒。けれど、モザイクでぼかされていたせいもあり、その映像は脳内で補完され繋がり、無限にその先を映し続けた。
最悪だ。今日一日は何を食べても美味しく感じられないかもしれない。やっぱり見るんじゃなかった。後悔、けれどそれと同時に腹の底で少しの苛立ちが生まれるのが感じられた。
「ねえ、メルル。もし人間の犯人がいてさ、本当にこんな事件を起こして、どこかでこの動画を見てほくそ笑んでるとしたら許せない?」
「あたしは正義の味方ってわけじゃないよ。このニュースを視なかったらそもそも事実すら知らなかったんだ。どこの誰かも知らないヤツが勝手に亡くなったって構うものか。まあ亡くなったヤツには同情するけどさ、それだけだよ」
「でも見てしまった。知ってしまった」
「何が言いたいんだよ」
メルルはいつもこうだ。根っからのドライ。その場での感情に流されない人間。でも、言い換えれば冷静で周りが視えている人間ともいえる。
冷たい人間、薄情者と映るかもしれないが、自分の命と他人の命、それを正確に測ることが出来る。要するに自分という天秤をしっかりと持っているのだ。
あたしはメルルのそんな部分を評価している。友だちでも先輩でもなく、相棒として。
「あたしはさ、こいつが目の前にいたら許せない。だって、他人の命を何とも思ってないのよ」
あたしには関係なくても、そんなことがまかり通る世の中であって良いわけがない。力を持ったものが何でも好きに物事を決めることが出来るのなら、文字通りこの世の終わりだ。そんな考えは魔獣の存在と何一つ変わらない。いや、悪意がある分それ以上に性質が悪いのだ。
メルルだって思うところはあるはずなのだ。もともとあたしたちの出会いはメルルの良心がなければ成り立たなかったのだから。
あの時は、彼女は冷静に見える表情の裏に確かな熱を秘めていた。あの時の眼差しをあたしは一時だって忘れたことはない。
けれど、その青く燃える炎の様な眼差しが今のメルルにあるとは思えなかった。
たぶん、彼女がこんなドライな性格になったのはあたしのせいでもあるのだろう。自らの感情、激情に身を任せて行動してしまえば、正確な判断が出来ないだけではなく、周りにも危険が及ぶ。ただ、漠然としただけの振り回す正義感は、相手だけでなく味方すらも傷つけてしまう。それを彼女は恐れているのだろうから。




