カンジかランジかシャジか
「はあ、えっと、どういうことですか。わたしがそのランジという方を探していたと?すみません、整理しようにも上手くまとまらなくて」
アリィちゃんはこめかみを抑え考える仕草を取った。きっとあたしの説明の仕方が下手なせいなのだろう。そもそも、夜深ちゃんからの又聞きなので真相を伝えられているかは怪しい。
というのも、夜深ちゃんからは適当にはぐらかされたからだ。冬の冷えた風呂場の掃除を任された時のような、あの時の心底面倒くさそうな顔は忘れない。
「へぇー人探し。でも凄い偶然だなぁ。アリシアちゃんってたしかフェルメールって言ってたし、たぶんいっしょの人だよね。夜深ちゃん、探してる人の名前ってどんな感じなの?」
「ああ、カンジかランジかシャジか知らないけれど、ヘンテコな名前だったよ」
「そうなんだ。あ、でもアリシアちゃんに姉弟がいたの初耳だし、あたしも話聴いてみたかったなぁ」
でもその後、面倒くさくなってきた(たぶん)夜深ちゃんが「あー、千寿流ちゃん!知ってるかな?そのお菓子にまつわる豆知識!それ知ってるともっと美味しく食べられるよ!」なんて話を切り上げるもんだから、それっきり話題に上がることは無かったんだった。
「ちずちず、そのですね。先ほども話した通り、わたしには妹しかいませんよ。それにもう亡くなっていると思いますし、今さら探そうなんて考えは無いですよ」
「えっと、じゃあ」
「はい、そのアリシア・フェルメールはわたしの名を語った偽物だと思います。そもそも、わたしは夜深という人物にも会ったことがありませんしね」
アリィちゃんは少しあきれ顔でそう言った。もともとアリシアという名前は女性名なのだから、その時点で気づいてほしかったと言わんばかりの表情だ。
いや、あたしだっておかしいとは思った。思ったけど、本当にそうだったら相手にも悪いし、疑う理由がなかったから信じただけだ。
あの時、あたしは年齢制限でハンターズカフェに入れてもらえず、お留守番を食らっていたんだ。直接視たらあたしだって疑っていたに違いない。
その後、クラマちゃんに連絡を取ったが、そのアリシア・フェルメールという名前は十中八九、偽名を騙っていたということが分かった。
「ご、ごめん、アリィちゃん」
「いえいえ、まったくもって怒ってないですよ。それより、連絡先とかは貰ってないんですか?普通は貰うものだと思いますけど」
「ごめん、貰ってないや。クラマちゃんにも聞いたんだけど、スマホは壊れちゃって連絡先消えちゃったんだって」
「なるほど。まあでも、あの二人の話を聴く限り、行方不明とはちょっと違うような気がしますけどね」
確かにそうだった。夜深ちゃんから聞いた話では、確かいなくなったから見かけたら知らせてほしい、って感じだったと思う。いなくなったということは家にも帰っていないということだ。けど、ただ元気がないだけのようにも聴こえる。
うん、普通に考えれば人違い。たまたま名前がいっしょだっただけ。ランジという名前は珍しくはあるものの、他にいてもおかしくない名前ではある。だから、気のせいだと、そう思い込むようにしようとしたその時。
「お食事中すみません、一つお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
アリィちゃんが男女二人組に突撃していた。そうだ。やましい事なんて無いのだから直接訊いてしまうことが一番手っ取り早いはずなのだ。こういう時の行動力は素直に尊敬する。
「は?何お姉さん。ってかすご。もしかしてリョー君の知り合い?」
「いや、全然、んなことないっ。あ、あの、何すか?もしかして声おっきかった?」
談笑しているところに突如現れた第三者。そんな予想外の事態に彼らが緊張しているのが、傍からでも見て取れた。




