アリシアとリリアン6
残されたのはリリアが大切にいつも被っていた帽子だけ。
ひとしきり泣きはらした後は、真っ赤な顔で探し回りました。学生生活なんてどうでもいい、友だちなんてどうでもよくなった。
たった一人の妹を探す為、世界に一つしかない家族を見つける為、自らが魔獣に襲われる危険性を一寸たりとも考慮せず、ただ闇雲に、力が尽きるまで走り続けました。
警察やギルドにも駆け込みました。けど、子供のわたしに何が出来るわけもなく、程なくして親戚に引き取られることになったんです。
それからはふさぎ込む毎日でした。
折り合いなんて付けられる訳もなく、友だちの前で作る笑顔は、薄紙に描かれた水彩画のように希薄でした。次第に学校にも行かない日が多くなり、親戚の提案もあり、一度療養をするという形で中退したんです。
「そ、それから、どうしたの?」
「どうもこうもないですよ。ただ養ってもらうだけというわけにはいきませんでしたから」
再び学校に通うのか、働きに出かけるのか、それとも――
わたしは家に戻ることに決めたんです。今の時代、その日を生き抜くだけなら仕事なんて山ほどありますから。たしかにすんなりとは行きませんが、境遇を伝えて同情を買えばどこでだって働くことが出来る。面白いですよね。最低最悪の境遇なのに、社会ってのは意外と何とかなる様に歯車がかみ合うんですよ。
それに親戚は笑顔で迎えてくれていましたけど、どこか厄介者を、忌子を視るような眼差しでしたから。きっと、早く出て行ってほしかったんだと思います。そのせいもあってか、そんな突拍子もない提案に強くは反対はされませんでしたから。
そう言ってアリシアは自分のエルフのように尖った耳を触る。
「妹はわたしと同じ耳ですが両親は違うんですよ。すごくおかしな話ですよね?」
その耳は人々をかどわかす妖精か、はたまた冥府からの使者か、まだまだ解明されていないという話だ。
親から子へ遺伝するというわけではない。何か外的要因が関係しているのか、それは今現在進行形で研究されている謎であり、英雄変革が起こった後、異能が認知され始めた後に生まれた新時代の人類だという声もある。
従来の人類よりも生命力や耐久性に秀でており、致命傷となる様な怪我や痛みでも耐え、腕力やその他もろもろの身体的能力も優れている。星一朗の堕神拡光に耐えたことも、重量百キロに迫る術式棍を軽々と振り回せる膂力も、新時代の人類だから備わっている身体機能と云えた。
「それからは疎まれ、同情されながらも地方を転々とし、何とかこれまで生きてきたってわけです。口に出来ないような悲惨な目にも遭ってきましたからね。だから、あの時の命を懸けて守るって言葉、あれ、本気なんですよ?」
そう笑いながらウインクをした。
「でも安心してください。わたし、界隈ではそれなりに有名人なのでっ」
「え、えと、うん」
アリィちゃんはその後に照れ臭そうに笑いながら「まあ、このご時世有名と云っても全国的にーみたいなことにはならないわけですが」と付け足した。
そんな自分が頑張れば、いつかはこんな境遇の誰かも、忌子なんて疎まれずに堂々と胸を張って歩ける日が来ると信じていますから。そう言って腰を上げて空を仰ぐ。千寿流はその顔からなんだか清々しさを感じた。
そっか、だからトレジャーハンターって仕事をしているのか。アリィちゃんがいつも大切そうに被っている帽子は妹のリリアちゃんの形見なんだ。
少しだけだけどアリィちゃんのことを知れた気がする。喜んでいいような話じゃないのは分かっているけれど、なんだかそれが少し嬉しかった。
「銀ノ木にはその、お墓参り?」
「ええ、もうずいぶんと帰っていないので!それに銀ノ木にはわたしの友だち、後輩がいるんです。都合が付けばちずちずたちにも紹介して、いっしょにご飯でも食べられたらなって思ってます!」
「えひひひ、そうなんだ。楽しみだなぁ」
「はい!辛気臭い話はもう終わりです!ちずちずに話せて、改めて心の整理が出来ました。その、ありがとうございます!」
そう言って笑うアリィちゃんの表情は、いつもの太陽のような笑顔そのままだった。




