アリシアとリリアン4
「ぁ……う。その……」
言葉にならなかった。
分かっていた。分かっていたけど。分かってはいたけど。
この行き場のない悲しさを消す方法は分からなかった。
他人事?違う。友だちだ。アリィちゃんがあたしのことをどう思っているかは知らないけれど、あたしにとっては友だちだ。だから、もし、昔を思い出して悲しんでいるのであれば助けてあげたい。哀しみを分かち合ってあげたい。
けれど、かける言葉も、抱きしめる勇気もないあたしには、ただ黙っていることしかできなかった。だって、あたしがどんな言葉を掛けたとしても現実は何も変わらないから。星ちゃんが亡くなって、何をしたって戻ってこないように、現実は残酷に時を刻み続けるだけなのだから。
「いいんですよ、もう。終わったことですから。こうやって昔話をできるくらいには、もう大丈夫ですから。だから、大丈夫なんです」
大丈夫?何が大丈夫なの?
そんな泣きそうな顔で、今にも消えてしまいそうな笑顔で、何が大丈夫なの?
分からないよ、アリィちゃん。
「リリアは魔獣に殺されたんです。今の時代珍しい事じゃないですよね」
どこかのニュースで見た。能力者は年々増える傾向にあるという。
誰かが言った。増えすぎた魔獣を駆逐するために神から与えられた使者なのだと。
今ではギルドやレギオン、結九里のように地方によっては自警団のような団体を作り、日夜魔獣に対抗する術を模索している。学校の授業でも、魔獣に出会ってしまった時、襲われた時の為の非常時訓練なども定期的に行われる。
政府の意向なのか自治体の方針なのか、近年になって急速に対策が強化されるようになってきた。
けど、昔はその意識が少なかった。と云ってもいいだろうか。不用意に地区外に出ては魔獣の被害に遭うような人も少なくなかった。
アリィちゃんは子供のころ、リリアちゃんといろいろなところに冒険をしに行ったといっていたが、もし魔獣に出くわしたらどうなるのか。その意識が少なかったんだろう。
だから、不幸に遭ってしまった。
テレビの統計で見たことがある。死亡者の半分以上は魔獣による被害。中には間接的に被害を及ぼしているケースもあるみたいだが、少なくない人数が犠牲に遭っているのだ。
「何も目の前で殺されたわけではありません。ある日の夜、帰りが遅くなったのです」
リリアはわたしの色眼鏡も入るかもしれませんが、とてもよくできた子でした。真面目で素直で、思いやりがあって、優しくて。そうですね、ちずちずみたいな子でしたね。ちずちずよりももっとおとなしい子でしたが。
どんなに遅くなっても五時前までには家に帰ってきていました。部活が長引く時にはわたしか母に一報あって、心配させないようにといつも気遣ってくれていました。
そんなリリアが六時になっても帰ってこなかったのです。もちろん、連絡も無し。
心配する母にわたしはこう言いました。
「リリアも小学校高学年なんだよ。ちょっと遅くなることぐらいあるよ」
八時が過ぎたころ。心配する母をよそに妹は何食わぬ顔で帰ってきました。
「ただいま、お母さん」
「リリアっ!心配したんだからっ!なんで連絡をくれなかったのっ!?」
「ごめんなさい。スマホ、充電切れちゃってて。ごめん、友だちに借りればよかった。その、文化祭の準備に夢中になってて気が付かなかったの」
母は目尻に涙を浮かべつつ何も言わないで、リリアを抱きしめました。怒るときは怒る母だったのでその様子が少し意外でした。
わたしはその様子を見て、内心ほっとするのと同時に少しムカついたのを覚えています。だって、心配し過ぎてその日の宿題に全く手が付かなかったんですから。
今思うと我ながら当時の心の狭さに頭痛がしますね。




