アリシアとリリアン2
わたしは小さな頃から冒険、というか歩き回っていろいろなところを探索するのが好きな子供でした。
リリアの世話を任せられるようになると、わたしは彼女を連れまわして、毎日いろいろな所へ冒険に出かけたのを思い出します。
わたしたちは毎日、家の周りや少し遠くの公園まで足を伸ばして、何か新しい発見をしようとしました。夏には家族も付き添いで遠くの海まで出かけて、水辺で石を投げたり、小さな生き物を探したりしました。秋には落ち葉が色づく森の中を歩いて、風に吹かれ舞い踊る色とりどりの紅葉を追いかけたりしました。
あの頃はとても楽しかった。
巡る季節、何をするにも新鮮で、近所の路地裏さえ未知の遺跡か中世の異世界に迷い込んだように感じられました。路地裏の影や石畳の隙間に、何か秘密の入口が隠されているような気がして、わたしたちは飽きることもなくワクワクしながら探検しました。
そんなわたしにとって、リリアはただの妹でもなく、友だちでもなく、どこに行くにもいっしょの『相棒』のような存在だったのです。
「……」
あたしは口を挟まずアリィちゃんの語る昔話に耳を傾ける。その横顔がとても楽しそうで、子供っぽくて、本当に楽しかったんだなあって思うことが出来た。
もしかしたらリリアちゃんとの冒険が楽しかったから、今もアリィちゃんはトレジャーハンターっていう仕事をしているかもしれないな。
「ちずちず、退屈じゃないですか?」
「ううん、ぜんぜん!」
「……そうですか」
アリィちゃんはそう言って話に戻る。あれだけ楽しげだったのに、その横顔がどこか憂いを帯びて視えたのは気のせいなのかな。
わたしが九歳になるころ、市内にある中学校の受験勉強をするため、リリアに構ってあげられる時間が少なくなりました。その兆候はすぐに始まったわけではありません。次第に少しずつ、リリアといっしょに冒険をする時間が減っていったのです。
「お姉ちゃん、今日も勉強?今日はいっしょに出かけるって約束したのに」
「わたしだって遊びたいけど。けどっ!わたしにだって勉強があるんだよ!リリアと遊んでばっかじゃ成績上がらないしっ!」
「いつ終わる?あたし、待ってる」
「そんなのわかんないよ。っていうさ、リリアに視られてると集中できない!何もしないなら出て行ってよ!」
「うん。ごめん、お姉ちゃん」
リリアの寂しそうな声。遠ざかっていく足音。
その小さな足音が、心無い言葉を放ったわたしをいつまでも苛めつづけました。だから、リリアは悪くない。わたしも悪くない。そう思うようにしました。
だって、わたしだって遊びたい。リリアといっしょにいろいろなところに行って、いろいろな発見をしたい。昔みたいに疲れなんて言葉を知らないみたいに、顔中泥だらけになって何も考えずに笑っていたい。
けど、わたしたちは成長する。いつまでも子供のままではいられない。一足先にその現実を理解したわたしは、現実と欲求の狭間から生まれるストレスで、今みたいにリリアに強く当たることも多くなりました。
次第にリリアからの誘いは減っていきました。きっと、声をかけても断られると理解したのでしょうか。それとも、勉学に勤しむわたしの為を思って気を遣ってくれたのでしょうか。
いや、もしかしたら梃子でも動かない姉に幻滅して、ただ失望しただけなのかもしれませんね。
ふと気配を感じて振り返っても、そこには誰もいませんでした。
それは明確に表れた距離。
視えない壁に隔たれた姉と妹の姿でした。
わたしは早くから勉学に取り組んだ甲斐もあり、無事中学試験をパスして都内の私立校に進学することが出来ました。都内でもそれなりの有名校で父も母も受験合格を祝ってくれたのを覚えています。
リリアも祝ってくれました。けど、そこに在る感情は中学受験に勤しんだ姉のアリシア・フェルメールに対してであり、相棒でもあったお姉ちゃんに対して送られる眼差しではありませんでした。
当時の愚かなわたしは、その時ようやく気が付いたのです。




