ミートナポリタン
お料理修行を始めてから今日で六日目。
六日が経とうとしているのに、思ったような料理が作れたことは一度もなかった。
それっぽい物は作れる。食べれるものに仕上がる。けれど、ママやアリィちゃんが作ってくれるような料理に仕上がらない。
(いや、そんなの当たり前だよ。これまでまともに作ったことがない、あたしみたいなのが美味しいものを簡単に作れたら、誰だって料理人になれる。そんな甘いことじゃないのは分かっていたはずだもん)
料理自体は意外と楽しい。面倒という気持ちよりも、試してみたいという好奇心がまだ勝っているからだろうか。パズルのように組み立てていくのが楽しい。
けどネックになるのは、『全て違うものを作ること』という決まり事。これから毎日続けていけば作れる選択肢も少なくなっていって、毎回頭を悩ませないといけなくなるのは明白だ。
今のうちに作ったメニューを覚えておきたいところだけれど、『メモの禁止』。これのせいで作り易いものや、応用の利きそうなものがストックできない。覚えておけばいいじゃないかという話だが、あたしは残念なことに物覚えが悪いのだ。
なるほど、六日目にしてやっと気が付いたのだが、この“捧腹絶倒悶絶躄地なお料理修行(仮)”はけっこう頭を使うのに気が付いた。
作るべきは三人分の食事(アリィちゃんが二人分食べるため)。
まず、毎回作るメニューを変えるために、調理方法や調理の段取りを考える必要がある。そして、上手くできているかは分からないが、献立のバランスや彩りを意識する。といった、並行して複数の作業を同時にこなす必要性のある、デュアルタスクの技術が求められるのだ。
ちなみにこれらの内容を千寿流には漠然としか理解できていない。このお料理修行では筋力や戦闘技術は身につかないものの、知らず知らずのうちに、思考力、それを実際に行う行動力を学べていた。
「よし、出来たっ!」
最後に彩りのパセリを振りかけて完成だ。
今日作ったのはミートナポリタン。とろとろのチーズと半熟の卵が太めのパスタに絶妙に絡み合う自信作だ。豚肉が少し焦げ目に出来上がってしまったが、これはこれでアクセントとして利いているかもしれない。
「アリィちゃん、おまたせー!今日はミートナポリタンだよー!」
「これは!美味しそうですねー!ちずちずの料理スキルが日に日に上がっていってるのが分かる出来ですよ!」
「えひひひ、そっかな」
そう言われると照れてしまう。
初めはあたしに料理を作らせて楽したいだけじゃないの?とか邪推をしてしまったが、目に視える変化、というわけではないが、考える力が身についた気がする。
それにこうして実感できるレベルで料理の腕が上がってくると、もしそうであったとしても嬉しくなってしまうのだった。あとはその、単純に嬉しいかな。美味しいって笑顔で言ってくれることが何よりも嬉しいんだ。
「明日で料理修行も一週間。風太と別れてから、きっちり四週間になります。約束の一ヶ月ですね。どうでしょう、こちらから一度連絡を入れてみますか?」
「うーん。そうだね。それに一回も連絡くれないし、ちょっぴり心配かも」
メッセージを送ってみるが、数時間待ってみても一向に既読にならない。直接なら繋がるかもと電話をかけてみるものの、電波が届かない位置にいるのか、それとも電源を切ってしまっているのか、繋がることはなかった。
「まあ、予想はしていましたが、期日まで外部との通信は遮断してるっぽいですね」
「あたし、心配だよ。もしかしたら電話に出られない状態なんじゃない?だとしたらすぐにでも」
「いえいえ、風太に限ってそんなことはありませんよ!あの風太ですよ?きっと大丈夫ですよ!」
「う、うん」
アリシアの胸中。数日間風太といっしょにいて、彼の人となりは理解している。
けれど、この世界に絶対なんてない。だから可能性はゼロではない。アリシアは内心最悪のケースを頭の中で思い浮かべるが、千寿流には気取られまいと言葉を濁すのだった。




