あたしのお料理修行2
「え、料理?」
いや、そりゃ見ればわかる。蓋が開けられ四方に展開されたそれは、どこからどう見ても簡易的なキッチンだ。それ以外の何物でもない。疑問なのはなぜキッチンなのかということだけ。
「はい!これは移動式簡易キッチンです!」
「えぇ~~~!?あたしはてっきりすごいトレーニングマシンとかなのかなって?」
だから、あたしにもできるかなって緊張していたのに、ただのキッチンだったなんて。これじゃあ、緊張し損。バカみたいじゃないか。
「えっと、修行、なんだよね?なんでキッチン?なんでお料理?」
思った疑問を素直に口にする。
「そんなんで強くなれるの?」
そこまで口にしてあることに気づく。
もしかしたら、直接的な指導ではなくて料理をして、その過程で何か掴んでみせろ、ということなのかもしれない。
漫画なんかでも見たことがある。一見何でもないような内容なのに、振り返ってみるとその全てが意味のある内容だったりするのだ。
「もしかして!もしかしてだよ!お料理を作ることで何か筋肉とかが鍛えられて、その、トレーニングになるとか?」
「いえ!お料理はお料理です!」
その場でずっこけそうになる。料理は上手に越したことはないけれど、あたしは料理人になりたいわけじゃないのだが。
「はぅ、なんで料理なの?あたし、てっきり箱の中にものすごい武器とか入ってるの期待してたのに」
「武器なんて!そんなもの扱わせるわけないじゃないですか!危ないですし!」
「けど、お料理なんかで修行になるの?」
「なれます!」
ドン、と大きな胸を張るアリィちゃん。根拠のような物は感じられないけれど、なんだろうか。不思議とその頼もしい表情を視ていると安心してしまうのだ。
「それに料理を馬鹿にしちゃいけません!それだけ言うからには、始めてからきつい~って泣き言なんて言わないでくださいよ?」
う、そう言われると物怖じしてしまう。
「内容は簡単です。これからちずちずには風太が返ってくるまで毎日三食、ちずちずとわたし、三人分のお料理を作ってもらいます。ホテル内にいるときはホテル内の、外に行くときはこちらを使いましょう。一通りの料理はこのマシンで全て事足ります」
確かに大変そうだ。なぜ二人しかいないのに、三人前を作らなければいけないのかは、訊かないほうが良いかもしれない。
「あと、条件をもう三つ。まず一つ『ネットでのレシピ検索の禁止』。これはレシピを確認し、食材を買い込んで作るだけならば文字通り、誰が作ってもほとんど同じになってしまうからですね。今の時代、レシピを見れば誰でも美味しい物が作れちゃいますからね。それの禁止です」
レシピ通りに作ることの禁止。まともな知識がないあたしにとっては大変な条件だ。
「二つ目、『メモの禁止』です。調味料の分量をメモしておけば使いまわせますからね。それの禁止です。あ、もちろん頭の中で覚えておいて、再現すること自体は禁止しません」
うん。メモの禁止。これがどう響いてくるのか今のあたしには分からない。
「そして最後。これから作るメニュー、『全て違うものを作ること』。同じメニューを作ったとしても数に入れません。もう一度作っていただきます」
「う、それ、さすがに厳しくない?あたし、料理なんて調理実習以外でまともにやったこと無いんだよ?」
「大丈夫ですよ!わたしは完璧な物を作れなんて一言も言っていません。ちずちずなりの精いっぱいを見せてくれればそれでいいんです」
内容をざっと聞いてみて、正直この修行?に関して、あたしが強くなるための何かを握っているとは到底思えない。
けど、自分一人で悩んでいたって、いつまで経っても何も思いつかないだろうし。アリィちゃんが意味があるというのならひとまずは試してみよう、そう思った。
「あ、最後に一つ言い忘れてました!」
「へ?まだ何かあるの?」
これ以上まだ何かあるのか。さすがにもう勘弁してほしいところなのだが。
「料理は愛情!楽しく、ですよっ♪」
アリィちゃんはそう言って、舌をペロっと出しウインクをした。




