あたしのお料理修行
日が昇り、カーテン越しに柔らかな日差しが差し込んだ。朝が来たのだ。何だか今日はいつもよりすがすがしい。その理由は寝ぼけ眼の千寿流にもすぐ理解できた。
そうだ、アリィちゃんに修行を付けてもらえることになったんだ。
ちなみに修行の内容は聞いていない。昨日あの後、具体的な内容を聞こうとしたのだが「もう夜は遅いので明日に話しましょう」ということになったのだ。
そんなお預けを食らった気になり過ぎて眠れなくなるじゃあないか。と思ったのだが、もちろんそんなことは無く、ベッドに入り、布団を被った後の記憶はない。どうやらあたしはすぐに眠ってしまったのだろう。
「お、ちずちず起きてましたか!では身だしなみを整えたら街へ繰り出しましょう!わたし、少し準備があるので下で待ってますね」
「あ、うん、わかった」
準備、か。いったい何をやるのだろうか。期待する半面、少し怖くもある。
こういう時王道のバトル漫画とかだと、一般人には絶対に出来ないような修行を課されて、死に物狂いで鍛えて強くなるのがお決まりだ。
あとは修行を付けてくれる謎の老人の登場とか、主人公にだけ扱える謎の装備とか、時の流れが著しく遅くなる空間とか。
まあ、そのどれもが当てはまらないんだろうけど。って言うかあたしにはとても真似出来ないし。下らない事を考えながらあたしは支度を終え、鍵を施錠し、エレベーターに乗り階下へと降りていく。
「ちずちずー!こっちですー!」
あたしの姿を発見すると、アリィちゃんはこちらに大きく手を振り、手招きしてくれた。
「ごめん、どうでもいいこと考えてたら少し遅れちゃった」
「いえいえ。むしろ驚きました。アリシア特製、地獄の捧腹絶倒悶絶躄地の修行に恐れをなして、部屋の隅で縮こまってしまっているかと思いましたよ」
アリィちゃんはさも悪役のように、口をにやりとさせながらそう言った。こういう顔をする時のアリィちゃんは大体冗談を言っているのだ。最近何となくわかってきた。
あとは、うん。ほうふくぜっとう、もんぜつびゃくじ?なんだか凄そうだけど、どういう意味なのだろうか?
「とまあ、冗談は置いておいて。これ、なんだと思いますか?」
アリィちゃんが指さす先には、風呂敷に包まれた機械のような物が鎮座している。
大きい。一目見た時の印象がそれだ。
横は一メートルに満たない。八十センチぐらいだろうか。奥行きはもう少しある。一メートルは超えていると思う。高さに関してはあたしより少し低いくらいなので、同じく一メートルくらいだろう。
なんだろう。分からない。でも分からないなりに考えてみることにしよう。アリィちゃんは修行と言った。だから、修行で使うようなものということは間違いない。ともすれば。
「自分のレベルに合った練習相手が出てくる機械、かな?ほら、不思議な力で敵を作ってそれと戦ってみる。的な?」
「残念、違います!っていうかなんですか、その未来から来た猫型ロボットが持ってそうな何でもアリっぽい設定は」
どうやら違うらしい。
「正解はですね!じゃーん!」
そう言って風呂敷を一気に取り払う。
「え、何?これ?」
なんだろう、これは。全貌が明らかになったけど、どういった用途で使うのか解らないままだ。
出てきたのは銀色の四角い機械のような物体。重量はかなりあると見た。ちなみに上部には蓋のような物がある。みた感じ厳重だ。ロックを外して中に入っているものを出すのだろうか。そしてようやく気づく。ああそうか。
「これって、武器が入ってるの?」
アリィちゃんはちっちっちと人差し指を立てて、左右に振るしぐさをしながらロックを解除する。
「え、なにこれ?」
「ちずちずにはですね。なんと、料理をしてもらいます!」




