わたしといっしょに修行をしませんか?
「ごめんなさい。少し考え事をしていたんです。ちずちず、気持ちよさそうに眠っていたので、起こしちゃうのも悪いですし」
「う、べ、別に怒ってないよ。あたしが勘違いしちゃっただけだし。でも、何を考えごとしてたの?あっ、もしかして、あたしのこと嫌になっちゃったとか!?」
そりゃ確かに、あれからというものアリィちゃんには頼りっぱなしだ。食事に関しても、朝起こしてもらうのも、学校の勉強も、その他いろいろなことも。全部全部全部、アリィちゃんに頼りきりなのだ。もしあたしがアリィちゃんの立場だったらどうだろう。そんな子のことを可愛い、世話してあげたい、など思うだろうか?
いや思わない。思わないなんて薄情なことは無いかもしれないけれど、思っても多分行動できない。……と思う。
「あっはは!そんなことないですよ!もう、ちずちずは冒険なんて言ってるわりには、思ったよりも心配性なんですね!そんな小さなこと考えてたら疲れちゃいますよ?」
そんなこと言われたって。しょうがないじゃないか。だって、あたしは弱いし、頭も悪いし、料理も、うん。あんまりできない。焼きそばとかカレーライスとかはたぶん作れるけど、アリィちゃんみたいに美味しくは作れない。調理実習で作れる程度のものだろう。そんなこと、いっしょにいれば嫌でも気づく。
アリィちゃんとはもう二週間以上いっしょに共に過ごしているんだ。思い返してみても、全部頼りっきりだった。そんなの、愛想をつかさないなんて方がおかしい。そう思っただけなんだ。
「でもわたしがどう思っていても、結局それはちずちずの問題ですからね。わたしがどれだけ心配ないって言ってもその心の底。本当の音はきっと欺けないんでしょう」
「?」
アリィちゃんの言っている意味がよく分からない。欺く?どういう意味なのだろう?
「だから、考えていたんですよ。ちずちずが心の底から笑える方法を」
ドキリとする。本当に笑える方法。本当に笑うっていうのがどういうことなのか。あたしはもしかして、今無理をして笑っているのだろうか。
「他の地区でも有名な行列のできる名店から、人気の少ないお店、他にもカラオケ、ボウリングとかゲームセンターとか、ここ二週間いろいろなところに行きましたよね?」
「う、うん」
「ちずちずは心の底から笑っていたと思いますよ?どこへ行っても楽しく、曇りのない笑顔で」
「え、えっと、うん。だって、アリィちゃんといっしょは楽しかったし」
それは本音。アリィちゃんといると楽しい。
「けど、その時だけです。夢中になって打ち込んでいる間だけ。その後は、どうでしたか?」
思い当たる節はあるだろうか。思い出そうとしても解らなかった。思い出そうとしていないのか、思い出せないのか。きっと、そのどちらもが当てはまるのかもしれない。
「その不安というか、憂いをですね。取り除いてあげたいって、思ったんですよ」
憂い。憂いってのは物事が思うようにならなくて苦しいって感情だ。
今はもちろん感じてない。けど、思い返してみよう。
「……」
そうだ。思い返せばいくらでも出てくる。
だって、あたしは弱いから。力の無い自分にいつも歯がゆい思いをしてきた。子供だから仕方がないって言われることもあるけれど。それは確かかもしれないけれど。自分の身は自分で。少なくとも足手纏いになりたくないんだ。
「正直な意見ですね。わたしはそのままでもいいと思ってます。だから無理強いはしません。風太はここにはいませんが、彼も同じことを言うと思います。“おめえはンなこと気にしなくていいんだよ”ってな感じですかね?」
アリィちゃんが髪をかきあげながら、風ちゃんの声真似をしてそう言った。ちょっと、いや、だいぶ似ていた。その辺りはクラマちゃんよりも得意なのかもしれない。
「けど、わたしはちずちずの意思を尊重します!もしちずちずさえよければですが、わたしと修業をしましょう!で!風太が戻ってきた際に驚かせてあげましょう!」
その言葉に、千寿流の表情がぱぁっと明るくなる。
この二週間、楽しくなかったわけではない。けれど、ただ無為に時間が過ぎていくような、そんな虚無感のような物を時々感じていた。それは夜になると顕著で、たまにアリィちゃんが先に寝てしまった時は、胸がチクリと痛むような罪悪感すら覚えた。
あたしはこのままでいいのか?風ちゃんが頑張ってくれているのに本当にいいのか?
だから、あたしはその言葉をどこかで期待していたんだ。
だから、返す言葉ももう決まっている。
「うん!」




