瑞獣棍
強固な装甲も何もかも、全てを打ち砕く勢いで放たれた一撃。
もともと、その小さな身体に釣り合わぬ膂力を持ち合わせていた知瑠にとって、その長所を最大限に生かした必殺の一撃である。当然の如くオーバーキル。粉砕された頭蓋から緑の体液と黒い霧を溢れさせ、速度を上げながら落下していく。
「まずっ!?下に誰かいたらっ。勇璃っ!」
再度、瑞獣棍を振りかぶり、やり投げの要領で真下に向かって投擲する。弓矢の如き速度で投げられた瑞獣棍は、落下する魔獣の身体を貫き、そのまま勢いを上げ、地表に向かって落下していく。
「姉さんっ」
その様子を下で視ていた勇璃はすぐさま姉の考えている意図を理解し、空を蹴りながら駆け上がる。
そして地表に棍が突き刺さる直前で、その横っ腹に銃弾を数発撃ちこんだ後、止めとばかりに回し蹴りをくれたやった。横からの衝撃に勢いを殺された棍は、回転しながら隣に立っているビルに突き刺さる。
「し、しまった……」
ビルの壁に見事に突き刺さった瑞獣棍。蹴りの力が強すぎたのか、思ったよりも深く突き刺さってしまい、そこを起点に罅がいくつか走っていた。
「はっはっは。これは必要経費か、それともマイナス査定になるのかな?」
壁を蹴りながら速度を殺し、無事地上に着地をした知瑠は、その破壊跡を見るや否やそう言った。
「う、うぅ。なんとか掛け合ってみます。ちゃんと姉さんに声をかけてもらったのに、目も当てられませんね」
「まあ、勤務時間外労働だからね。それに勇璃の活躍が無ければもっと甚大な被害になっていただろうし、大目に見てもらえるだろ」
知瑠は笑いながらそう言うと、スマホを取り出しながら大通り側に歩いていく。そうだ、脅威は退けたのだ。何はともあれ、これ以上人々に被害は出ないのだ。それをまずは喜ぼう。
「へぇ~、すごいんだね。勇璃ちゃんと知瑠ちゃん、またお手柄だって!」
スマホのネットニュースを視ながら千寿流がそう呟いた。
「ホントですね。風太から少し話は聞いてましたけど、これって本当にアイドルみたいな扱いじゃないですか。お顔立ちもいいですし、目立つなっていうほうが無理な話ですよね!」
情勢が情勢だ。魔獣による被害が増え、異常気象により住む場所を追われる人も少なくない。その為、アイドルという娯楽が不謹慎だと扱われる地域も存在する。実際、現在の平塚市ではそういった意見がネットでよく流れている。
しかし、娯楽が不謹慎だという考えは人々にストレスを与える要因でもあるのだ。口には出せずとも、不平不満は目に視えない形で蓄積していく。そんな中、街を守り、住民の安全を約束する新進気鋭の若き警察官。おまけにその二人が容姿端麗というのだから、騒ぐなというのは無理という話だった。
けれど、本来は喜ぶべきことじゃないのかもしれない。それは要するにこの平塚市という街に魔獣が現れているということでもあるのだから。
「けど、それで人の手による犯罪が減っている。皮肉なものですね」
「皮肉?うーん、でも同じ平塚市でもこっちの方は魔獣が出たって話、聞かないね?」
皮肉の意味がよく分からなかった千寿流は、思っていた疑問を素直に口にする。
「あ、そういえばそうですね。中心区を離れたここでは吹き付ける砂嵐も少ないですし、魔獣の出現と何らかの関係があるのでしょうか?」
魔獣が砂嵐によって生まれている?魔獣が砂嵐に引き付けられている?そのような話はどちらも聞いたことが無い。
今回のことでいえば砂と蜘蛛だ。何ら関連性が見いだせるものでもない。
「今日どうする?風ちゃん、どこにいるのかな。探してみる?」
これ以上考えていても何も思いつかないと思い、千寿流はきっぱり話題を切り替えることにした。
「いえ、風太から連絡が来ないということは、まだ十分ではない、ということでしょう。それに場所も分かりませんし、わたしたちは焦らずに帰りを待ちましょう」
風太が何処で何をやっているかは二人に知らされていない。ただ、時間が欲しい、待っていてくれと言われただけだ。
「ふふふ、心配しないでください!わたしの方が大人なんです!学校の授業で分からないところがあれば、わたしがちゃんと教えてあげますから!」
顎に手を当てて少し考えた後、アリシアは笑顔でそう言った。




