サイレン
「ふぃー食った食った。やっぱ焼肉はカルビだよなー!他も美味いけどやっぱカルビが最高だ―!」
お腹が膨れ、気を良くしている知瑠は、酔っぱらいの様に丸出しのお腹を叩きながら大きな声でそう言った。ちなみに二人とも勤務を終えているので、ラフな私服姿である。
「姉さん、はしたないですよ。ほら、他のお客さんも見てますから。そんな大声出さないでくださいっ。恥ずかしいな、もうっ」
ちなみに知瑠は二十歳を超えてはいるが、ほとんど飲めない(飲まない)下戸であり、酒に酔っているわけではない。お腹が膨れると気が大きくなってしまうタイプの人間なだけである。
「もぉ~、今はプライベートだろぅ?好きなもん好きなだけ食って、好きなこと言いまくれるんだぜ~?」
「プライベートでも好きなことを言いまくるのはダメですっ!もう!これだから外食は嫌なんですよっ!」
そう言って身体を揺する。アルコールが全く入っていない状態でこれならば、もし飲ませたらどうなるのか想像がつかない。もしかしたら、力に任せて店一つ破壊しつくしてしまうかもしれない。姉の力ならば想像に難くないのが怖かった。
「あう、トイレ行ってくる。食い過ぎた」
急に静かになり、そそくさとトイレに向かう知瑠。生に近い肉もバクバク食べていたのであたったのだろうか。騒ぎまくっている罰当たりだと思う反面、本気で体調を心配する勇璃だった。
____ウーーウーーウーー
突如けたたましくサイレンが鳴る。それは平塚区内に魔獣が現れたことを示す合図だった。
「勇璃ッ!」
トイレの扉が勢いよく開け放たれる。そこにはスカートがずり下がり、下半身パンツ一丁の姉が立っていた。あまりの衝撃的な光景に、一瞬自宅にいたのかと勘違いしてしまう。
「スカート上げてください!パンツ丸見えですっ!」
「おおっと、いかんいかん。うら若き乙女の純情で二次被害となりかねん」
姉さんは恥ずかし気にスカートをたくし上げながらそう言った。何がうら若き乙女の純情だ。姉さんは二十歳。まあ、可愛いし、童顔だし、中学生に見間違えるほどだけど。
(って、何を考えているんですかわたしは!今は緊急事態!早く現場にかけつけないと!)
「まあ、今回みたいな魔獣に対しては魔獣狩りも来てくれるとは思うけど、今回はあたしらが近いからな。食後の腹ごなしと行こうぜ、勇璃」
どこから取り出したのか、いつの間にか知瑠は二メートル近い警棒のような武器を手に持っており、開いている手を叩いて遊んでいた。
「はい!」
「お、報告も来てる!現場はここから十分も掛からない。勇璃のほうが疾い、先に行ってくれ!」
「っ、はい!」
飛び出すようにわたしは空を蹴り宙を駆ける。姉さんの判断はいつだって迅速だ。だから、こういう時は本当に頼りになる。わたしがいつだって全力を出せるのは姉さんのサポートがあってこそ。わたしたちは二人揃って初めて一人前なのだ。
「これは!?」
砂舞う市街地の入り口。そこにいたのは全長一メートルほどの巨大な蜘蛛のような魔獣が、視界に映るだけで十匹程度。虫嫌いな人が視れば卒倒してしまいそうなほどの狂気。リアル過ぎる恐怖の光景だった。
「皆さん!ここは危険です!すぐに避難してください!くれぐれも慌てないで!」
わたしは周囲の人々を逃がすのと同時に、魔獣の視線を集めるため、大声で叫びながら呼びかける。
(幸い被害はまだ軽微ですが、これ以上の放置は避けたいですね。十匹。数が多い分、一体一体の戦力は低いとみるべきか。まずは確実に一体仕留めるのが先決ですか)
そう考え取り出したのは一丁の拳銃。対魔獣用などではない、人間である犯人逮捕の為の武器。故に魔獣に対して有効打になるケースは少ないが、その音、衝撃により、有効打とならずとも威嚇の意味合いは十分に有る。
いくら蜘蛛が巨大であろうとも、異能により空中を自在に駆けまわれる勇璃にとっては、大した脅威にはならない。相手からの距離を保つように空中を蹴り旋回しながら、銃弾を蜘蛛の背中、足、眼と順に正確に狙いを定め、撃ち抜いていく。しかし――
「目立った外傷は無し。まあ、予想はついていましたが」
そう言いながらしゃがみ込み、靴にあるボリュームを切り替える。これは人間相手には決して使用してはならないという制約の元、破壊力を高めるため筋肉を活性化させることが許された、対魔獣用に特別に開発された特殊装備『汎用魔獣掃討器、リゲル』。
「さて、人間以外に問答は無用ですね。ここで完全制圧とさせていただきましょうか」




