勇璃と知瑠2
「なー、勇璃よ。正義感が強いのは姉さん嬉しいよ?けど、警察って職業は何にでも首を突っ込んじゃだめだと思うんだ?わかる?」
「はいはい、分かっていますよ。それ昨日も聴きました。一昨日も、その前の日も」
署内を資料を抱え歩き、やれやれと身振りを加えながら淡々と返す。このやり取りは姉妹にとって、日常的に繰り返されているようだった。
「それって解ってないってことじゃん」
ぼそりと誰にも聴こえないような声で小さく呟く。
「聴こえていますよ姉さん?」
「っひ!じ、地獄耳」
「それも聴こえていますっ!」
どうやら姉の知瑠は、立場の上で優秀な妹の勇璃には頭が上がらないようで、お小言を繰り返してはこうして窘められていた。
とはいえ、姉の言い分にも一理あり、正義感の塊のような勇璃は、もめ事と見るなら何も考えずに突っ込み、持ち前のパワフルさで強引に解決してしまう。これについては反省しなければいけないとは思っているようだ。
だからといって、署内でも制服を着崩してへそ出しで堂々と歩く姉が正しいとは到底思えないが。
「けど勇璃ちゃんはすごいねー。今月の検挙数も半端ない!さすがは自慢の妹だよ」
淡々と事務をこなしながら知瑠が言う。ズボラでいい加減ではあるが、与えられた仕事はきっちりとこなしている。道案内を頼まれれば快く引き受ける。まあ、当たり前の話ではあるのだが。
ただ、たびたび小休止や化粧室に行くと言って頻繁に抜け出しはするので、褒められた勤務態度ではない。
「それは姉さんもでしょう。わたしたちはペアで活動しているのですから」
容姿端麗の双子姉妹の活躍は知れ渡っており、関わった案件を全て解決に導いているという偉業も打ち立てている故、平塚では注目の的でもあった。
先日は住宅街に入り込んだ魔獣を、以心伝心、華麗なコンビネーションで討伐したこともあり、ますますに注目を集めている。
このように平塚市のネットニュースでは日夜取り上げられ、彼女たちの活躍は、娯楽の少ない街の数少ない楽しみの一つとなっている。まるで怪人と戦う女児向けアニメの魔法少女の様な扱いだ。
「あたしはいいよ。面倒事は嫌いだ。パトロールの時だってほとんど勇璃任せだ。一見知的、ミステリアス。けれど何か考えている様でなーんにも考えていないのがあたしだ」
(え、知的?ミステリアス?何か考えていると思われていると思っていたのが驚きなのですが)
「勇璃、あなたの異能は何だ?」
びしっと指を差し姉さんがそう言う。真面目そうな顔をして真面目なことを言い、暇をつぶす。いつもの姉だった。今は比較的手が空いているのも事実なので、仕方が無いから付き合ってあげることにする。
「わたしの異能は空天闊歩『Variable walk』です」
「内容は?」
「空気を地表のように蹴り、縦横無尽に駆けることが出来ます」
「異能の開示で得られる能力は?」
「踏みつけた空気を押し出し、瞬間的に加速することが出来ます」
「ああそうだ。正直しょぼいよな?」
「なっ!?」
言うに事欠いて、しょぼいとは何だ、しょぼいとは。
「だって、炎を自在に操ったり、念力で物体を動かしたりできる奴もいるんだぜ」
貶されるだけならば、姉の暇つぶしに付き合ってあげて損した気分になった。これ以上付き合ってあげる気にもなれず、話を切り上げようとした。
「じゃあなんで勇璃は強い?」
「え?」
姉の言う会話の真意が見えてくる。
「それは勇璃が勇璃だからだ」
当たり前、だとは思わなかった。わたしがわたしだから強い。それはきっと在り方の話をしているのだろう。
力は力だけでは力たり得ない。ただ闇雲に振り回すだけの矛ならば、味方もろとも自分自身を傷つけてしまうだけ。力に伴う心の強さが必要なのだ。
「弱きを助け、強きを挫く。その在り方が異能の力を高めてくれてるんだ」
抑強扶弱。わたしの座右の銘の一つでもある。日々活動する中で心がけている言葉だ。
誰かが言った。異能とは天からの授かりもの。必要とされるべく必要な者に与えられる天授なのだと。だから、得体の知れない力ではあったとしても、名を冠し享受できるのだと。
この力のお陰で助けられた命もたくさんある。そしてそれはこれからも続いていくのだろう。わたしの命の続く限り、いつまでも。
なら、感謝しなくてはいけない。この異能にも、その真意に気づかせてくれた姉の存在にも。
「報告書おーわり。さ、もうちょいで定時だ。今日は焼肉としゃれこもうぜ、妹!」
「はぁ、ちょっと感心していたのに。台無しですよ、姉さん」




