痛感
「あー!もー!二人ともどこに行っていたんですかー!わたし待ちくたびれて、ここにあるジュース全部制覇!とはいかなかったですけど、半分は飲み尽くしちゃいましたからね!」
一悶着を終えて帰ってくると、パンパンに膨れたお腹を叩きながらアリシアがそう言った。
自動販売機に売られているジュースの種類は、ざっと見る限りでも三十種類以上近い。その半分というと15種類。中にはペットボトルもあるので、それらを飲み干したとなるととんでもない量だ。嘘みたいな話だが、あの膨らんだ腹を見るに嘘偽りない事実なのだろう。
「お腹大丈夫?アリィちゃん」
「ふふふー、大丈夫ですよー。わたしは内臓も強いですからね!ちずちずたちが遅ければ全制覇してましたよ」
「ッくそ。お前の能天気なアホ顔視たら、くだらねえことで悩んでるオレが馬鹿みたいだぜ」
頭を掻きながら開いているベンチに腰掛ける。
「風太、何かありました?わたしでよければ相談、乗りますよ?」
「別に何もねえよ。答えは出てんだ。今オレは一人じゃない以上、考えねえといけねえって思っただけだ」
「ふむ、考える、ですか?風太は十分に考えて行動してくれていると思いますよ?ほら、この前の遺跡の魔獣と戦り合った時も、わたしの考えを瞬時に理解してくれましたし。まあ、あそこまで強烈な一撃を隠し持っていたのは驚きでしたけど」
その答えに首を横に振る風太。
「違え。工藤風太は弱い。それに気づいた」
そして、そんな弱い工藤風太にオレはイラついている。
身体が動かないわけじゃない。頭が回らないわけじゃない。もちろん舐めてもいねえ。オレは自身が出せる全力を出し切れている。けれど、そこにノイズの様に混ざるのは雑念。強敵を前に湧き上がるどうしようもない無力感。そして、そこから来る苛立ち。
冷静にあろうとすればするほどにから回る。出口のない雁字搦めの無力感が苛み続けるのだ。
「風ちゃんは強いよ!あたし、今まで視てきたもん!ずっと、ずっと!」
千寿流ならそう言うだろうな。ンなことは分かってるんだ。
けど、今のままじゃいられない。
「銀ノ木に行くんだってな?悪いが、オレは行けねえ」
「えぇ!?」
風太の思いもよらない言葉に大きく口を開けて驚く千寿流。隣に立っているアリシアも怪訝な顔で口に手を当てて、その言葉の意味、真意を探ろうとしていた。
「勘違いすんなよ。別にお前との旅を放棄するわけじゃねえ。初めに言ったんだ。責任を持って納得のいくところまでは付き合うさ」
「えっと、風ちゃん。それ、どういう意味?」
不安そうな顔の千寿流がそう訊ねる。
「今のオレじゃあ、その責任が持てねえってことだ。銀ノ木は異常気象、地盤変化、魔獣の存在。それに噂にゃ停影の住人とやらの話も聞く」
停影の住人。たしか、魔獣と組んで悪さをする団体のことだったはずだ。人間とまるきり性質が違う魔獣と組むなんて本当にできるのかと思うけれど、実際に新海地区では魔獣を呼び出し使役する人物に出会った。
もしそんなことが可能ならば、魔獣との共存だって可能なのではないかと、ふと思ってしまう。
こんなこと口にしたら風ちゃんには、またくだらねえ事と一蹴されちゃうだろうけど。
「情けねえ話、守ってやれる自信がねえんだ」
口先で守ってやると言うだけならばいくらでも言える。根拠なんて何もない大法螺吹き。伽藍洞の空間に浮かぶ文字の羅列。それは嘘なのだからどんな尊大な事でも言えるだろう。
けど、現実はそんなに甘くない。
この世界には敵わない相手がいくらでもいる。自身の手が届く距離、それ以上先にある命には手が届かない。ならば、黙って散らされる命を呆然と眺めるしかできない。それを今日改めて痛感した。
こんな中途半端な気持ちを抱えて、偉そうに守ってやるなんて言えるわけがない。
「だから、少し時間が欲しいんだ。オレが納得できるまでの時間が」




