中老の男との出会い
「ンだお前ら。次の行き先でも決まったのかよ?」
その声のする方を向く二人。報告を終えた風太が缶を三つ手に持って戻って来たところだった。
「ほらよ、飲めよ」
そう言って、放物線を描きながら放り投げられる缶ジュース。アリシアは片手でキャッチして見せる。
「わっ、わわっ!」
が、千寿流はキャッチしようとするが上手く掴めず、そのまま地面に落ちて転がって行ってしまう。
ゴロゴロと運悪く少しだけ傾いていた道を転がっていく。角にぶつかったと思ったら、そのまま方向を変え再び転がっていく。
「あぁあぁ~ん!待ってぇえぇ~~~!」
あっという間に視界から消えてしまった、千寿流の走っていった方向を眺め。
「どんくさすぎねえか?」
身も蓋もない一言。
「ま、まあ、投げて渡した風太も悪いということで」
「っち、わーったよ。しゃあねえな」
やれやれと言わんばかりに頭を掻くと、風太はプルタブだけ開けた缶ジュースをベンチに置いて、千寿流の後を追うことにする。
「あ、これ一口貰ってもいいですか?」
後ろを一瞥すると、アリシアが今置かれた缶ジュースを持ち指差していたのが視えた。風太は呆れた顔でそれに無視を決め込む。
「もー、返事がないってことは肯定ってことでいいんですよね?ふっふっふ、これ新商品じゃないですか!一度飲んでみたかったんですよねー!」
そう言って断りもなく缶ジュースに口をつけるのだった。
(っち、どこまで拾いに行きやがったんだ、アイツは。お、いたな、何やってんだ?)
悪態を吐きながら追いかけると、地面に手を付き、自販機の奥へと右手を伸ばしている千寿流の姿が視えた。
「おい、何やってんだ、お前」
そこは皮肉にも、風太が先ほど購入した自販機だった。
どうやら、転がり続けた缶ジュースは運悪く、自販機の下の狭い空間に吸い込まれるよう入り込んでしまったようなのだ。何とも滑稽な話である。
「ああ悪ぃ、オレが悪かったよ。もう一本好きなもん買ってやるから、ンな汚ねえとこに手突っ込むんじゃねえよ」
「へ、風ちゃん?え、えひひ、大丈夫だよっ!そんなの勿体ないし!後もうちょっとで手が届きそうなんだっ!」
そう言って再び自販機の下に手を伸ばす。
傍から見れば大人でもある風太が、子供の千寿流に小銭を拾わせているようにも視えるだろうか。
大変構図がよろしくないが、こういう時の千寿流が頑固なのは風太も知っている。なら、気が済むまでやらせてやるのが一番だと思った。別に誰にどう思われようが興味は無い。
「おやおや、子供に小銭を拾わせる。随分と厚顔無恥なお方ですね」
声を掛けられる。その物腰穏やかなのに、語気が強いという矛盾した声に何かと反応して風太は目を向ける。
そこには五十代に差し掛かるぐらいか、高そうなハット、ブラウンの紳士服に身を包んだ、気の良さそうな初老の男性が立っていた。しかし、風太の行いを見てか、その眼差しは厳しい色が浮かんでいるように思えた。
初老とは云え、スラリと伸びた背筋に、逆三角のガタイの良さ、少なくない筋肉がついていることがスーツ越しからでも判ることから、現役で何らかの仕事に就いていることを想像させる。そう、例を挙げるのであれば魔獣狩りのような。
「ンだよ、オッサン。事情も知らねえなら首突っ込むなよ」
覚えのない言われ。もともとの性格が災いしてか、売り言葉に買い言葉をしてしまう。
「見過ごせない。子供の不幸だけは。視ていられないのだよ」
口で言っても解らないと悟ったのか、男の諭すような手が風太の肩に伸びる。
下らない。そんなもの、音速に近い速度で動くことも可能な風太にとっては止まって視えるレベル。それを何事も無かったかのように躱すと、お返しと言わんばかりに背後に潜り込み、肩に手を掛けようとした。が、しかし。
「は?」
一瞬視界から消えたと思った中老の男は、風太の背中側に立ち、何事も無かったように、その震える肩に優しく手を掛けていた。
「青年、教育が必要ですかな?」




