おねだり作戦
「へー、銀ノ木ってところには異能に関しての研究を行ってる施設がたくさんあるんだ?」
風太がギルドに報告を行っている間、次に向かう目的地について千寿流とアリシアは話し合っていた。
「はい!銀ノ木はその昔、甲府という名前の市でして、今ほど気候も荒れていなかったので、遠くからも観光客がやってくるとても素敵な街だったんですけど……」
アリィちゃんの顔色が暗くなる。その銀ノ木という場所で何かあったのだろうか。
「ねえ、大口の時は導のせいで大穴が開いちゃったって話だったけど、銀ノ木ももしかして何か起こったりしたの?だって、街の名前が変わるってそんな簡単な事じゃないでしょ?平塚市は変わってないわけだし」
千寿流は普段冴えない子供そのものだが、ところどころ鋭い考えを披露することがある。
「それはその。地盤が割れて、地形そのものが変わってしまった……みたいです」
「みたい?」
煮え切らない言い方に訊き返す千寿流。
「ええ、その辺りは特に酷くてですね。地盤が盛り上がり形成された聳える山々には、人が踏み入れられないような吹雪が延々と吹き荒れていたり、地図自体がまともに機能していない地域で、わたしも詳しく知らないんですよ。すみません、ちずちず」
そう言いながら、アリィちゃんはマップアプリを開いて画面を見せてくれた。
しかし、銀ノ木周辺をタップすると、アプリ自体がバグってしまったのかと思われるほど、地名が高速で入れ替わったり、タップした画面が縦横無尽にブレ続けていた。
「うわ、眼が悪くなりそう」
「だから正直、お勧めしません。言っておいてなんですけど、このまま海沿いに下り、西に向かうのが良いと思います」
そう言うアリィちゃんの顔にはどこか憂いがある。隠してはいるみたいだけれど、アリィちゃんは普段から明るい分、その表情の違いが良く分かった。
あたしは別に人の嘘を見抜くのが得意なわけじゃない。
だって、誰だって分かる。
行く気も無いのに、話題にあげる必要などないのだから。
「行ってみたいの?あたしは、その、銀ノ木ってとこ興味あるよ?」
この旅はあたしだけじゃない。風ちゃん、アリィちゃんもいっしょなんだ。あたしだけのわがままを聞いてもらう気なんて毛頭ない。だから、さり気なくアシストしてあげることにした。
「いえ、いいんです。砂漠では無茶しました。二人にはこれ以上ない位危険な目にも遭わせました。だから、これ以上は。っわ」
アリィちゃんに抱きつく。
言葉で言っても伝わらないなら身体でぶつかっちゃえ。あたしは頭が悪いから、難しいことを言って納得してもらうのは難しいみたい。だから、あたしのとっておきの技、おねだり作戦だ。
「じゃあさ、また守ってよ?」
「へ?」
「アリィちゃん、ちゃんと守ってくれたじゃん。だからさ、今度も守ってよ。それならあたし、全然怖くないもん。ね、アリィちゃん♡」
慣れない上目遣いをしてみる。果たしてこれが効くのか解らないが、アニメなんかではこんなので意外と上手くいくのだ。だから記憶を頼りに見よう見真似で試してみる。
「う?」
アリィちゃんの目尻にほんの少しだけ涙が溜まってるのが視えた。
(あれ?あれあれあれ?もしかして嫌がってる?あたしっぽくないのは、うん。分かってるけど。そんなに嫌?)
思い切ってやったのに、嫌がられるのはさすがにショックだ。抱きついたことを後悔しかけていたその時。
「ちずちずぅうぅ~~!!可愛すぎますぅうぅ~~~!!」
そう言いながら抱きしめ返され、涙と鼻水に塗れた顔を擦りつけられる。う、汚い。いや、汚いとか思っちゃダメなんだけど。
「わがりましだ!わたじ、このアリシアが!何が何でも!絶対にッ!ちずちずを守ってみぜます!」
ガッツポーズを取りながら、そう高らかに宣言するのだった。




