あたしの想いと、アリィちゃんの想い
「あう、すみません。わたしもちずちずに未開拓の遺跡を、その目で視てもらおうとばかり考えてました。人が踏み入れていない場所には、危険だけじゃなく、色々な発見があって興味をそそられるのは事実ですし」
責任を放棄したわけじゃない。守り通すつもりでいた。
「それしか、視えていなかったのかもしれません」
けど、選ぶべき言葉を間違えてしまったかもしれない。
先ほどまで太陽のように明るかった笑顔が鳴りを潜め、しゅんとするアリシア。本心はどうあれ、結果的に千寿流たちを危険な目に合わせてしまったことを思い出したようだ。
「えっと、その、あたしは別に大丈夫だよ?」
千寿流がそう言うことはアリシアにも理解できていた。砂漠で見たあの消え入りそうな笑顔。
自分の身はもちろん大事だが、それ以上に近くにいる誰かが傷つくところを見たくない。きっとそれは、星一朗を目の前で失って、その悲しみの大きさに心が引き裂かれる想いをしたから。
自身の命の価値と云う、その天秤が少し不安定になってしまっているのだ。
「大丈夫じゃないですよ。ちずちず、人が傷つくのを見たくないという気持ちは解ります。けど、それは自分在ってのもの。自分自身の世界が在ってこその感情です。だから、人は皆、自分自身を一番に考えないと駄目なんです」
アリィちゃんの言うことがよく分からなかった。思い返す限り、あたしは他の人を一番になんて考えたことは無い。いつだって自分の気持ちに正直に生きてきたはずだ。友だちのことを思って行動することもある。けど、それだってあたし自身の意思のはずだ。
「どういうこと?よく分かんないよ。あたしは自分自身を一番に考えてる」
「ここ数日間だけの話です。だから、間違っていることもあるかもしれません。けど、傍から見ていてすごく不安定に思えました。だって、限界だったはずです」
魔獣と対峙した時の話。千寿流が眠った後、アリシアは何とか口を広げて水分を補給させた。重度の熱中症。早急に水分を補給しなければ命に関わると感じたからだ。
「けど、じゃあなんでアリィちゃんはあたしの為に身体を張ってくれたの?」
千寿流も思っていた疑問をぶつける。アリシアは命を懸けて守ると言ってくれた。なら、同じことじゃないのか。
「あはは。それは自信があるからですよ!わたしはちずちずと違って、体力も戦闘経験も豊富ですからね。死ぬ気で挑んでも生き残れる自信があるんです。それに死ぬ気で挑むのと命を投げ出すのでは、まるきり意味が違いますからね」
あっけらかんと答える。納得できるようなできないような答えだった。
「そうなんだ。でも、アリィちゃんのこと責める理由にはならないと思う。あたしは何も怒ってないから。それってあたしの想いでしょ?」
しばらく考え込んで出した答え。
千寿流が頭をフルで使って理解に努めた答え。
それが、“それでもアリシアを赦す”という答えだった。
「……」
その答えに目を丸くして呆気にとられるアリシア。
それは思っていた答えと違う返事が返ってきたから。そして、それがとても暖かい言葉だったから。
「オレも砂嵐が吹き荒れる場所は経験あるが、あんなバケモンと遭遇したことは無いからな。まあ恨んじゃいねえよ。良い経験になった」
風太が口元を緩めながらそう言った。
「えひひ、あたし、こんなだけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいなっ!アリィちゃん!」
曇りのない笑顔。その笑顔を見て改めて思う。守り抜くことが出来て良かったと。
「楽しく行こうよ。ほら、アリィちゃんは笑ってた方が好きだな、あたし」
その言葉に涙腺が緩み、泣きそうになるアリシア。
「あ、ああー!えー!ふかふかっ!もうふっかふかっ!極上っ!この匂い、感触、みるみる身体が癒されていくようでたまりませんね~!」
そんな顔を隠すように大きなベッドに飛び込んだアリシアは、ふかふかの枕に顔を埋めて大きく伸びをし、うずめた顔を擦りつけながら言う。
「あ、アリィちゃん。き、汚くない?せめてお風呂に入ってからのほうが」
「あ」
時すでに遅し、純白のシーツは砂やなんやらの汚れで塗れて黄ばんでしまっていた。




