石柱の檻3
(ちずちずっ、行きますよ。もう大丈夫ですからねっ)
アリシアは千寿流を抱えると、たった今破壊した石柱の方向に向かって駆けだす。
(今の風太の攻撃、読み通りなら再生はしようとも)
後方でゴゴゴと物々しい音がする。それは破壊された石柱が生え聳える音。
そう、石柱はその場で再生するが、あくまでも魔獣を中心に一定の距離に円状に再生する。
ともなれば簡単。柱の破壊と同時に魔獣の座標を内側にずらしてやれば、わざわざ自ら移動しなくても脱出できるという寸法だ。正直タイミングは難しいし、賭けの部分もあったが、悩んでいられる時間がない以上、これが最善だと思ったのだ。
最後、外側に向かって駆けだしたのは成功率を少しでも上げるため。魔獣の移動と共に柱も手前側に移動したので、結果は必要なかったのだが。
「やったっ!」
後ろを振り返り、思い通り事が運んだことを確認すると、アリシアは思わずガッツポーズをとる。
(おおっと、いけないいけない!ちずちずを落としてしまうところでしたっ)
アリシアは同じくシートを敷き地面に千寿流を寝かせると、術式棍に宝石を投入し再度構え直す。
風太の攻撃では石柱を破壊することは出来なかった。つまり、中にいる風太を脱出させるため、再度この石柱の壁を破壊しなくてはいけないわけだが。
「フン、石柱は破壊しなければ再生しないってワケか」
アリシアの声が聴こえた方向、威圧するようにずらりと隙間なく並んだ石柱の壁。その一か所に抉られたような傷跡が見えた。左腕に巻いてある腕時計で時間を確認する。
(一分。あと十数秒か。九、八、七……三、二、一)
脳内にお気に入りの曲を大音量で流しながらリズムを取る。何十何百と聴いてきた最高のナンバーだ。タイミングは完璧、それ以外ありえない。
ドゴオオオオオンッ!!
激しい爆発音とともに石柱が破壊され、前倒しに倒れてくる。
オレは倒れ崩壊する柱の岩片を足伝いに飛び上がり、何とか外殻の外へと脱出することに成功した。後方で瓦礫が轟音を立てて地面に激突し、砂埃が舞い上がる。それと同時に何事も無かったかのように再生を始める石柱が確認できた。
「風太ぁーーーっ!」
下に目を向けるとフェルメールがオレを呼んでいた。気の抜けた間抜け顔だ。どうやら今回は成功ってことでいいみたいだな。
「無茶しやがるぜ。咄嗟の判断か?」
「ええ!さすがは風太です!砂嵐はまだ吹いてますが、開放感は段違いですね!生き残れたって実感がハンパないですよ!」
「千寿流は?」
「大丈夫です!ちゃんと水は飲ませてあげましたから。今は暑さもあって消耗していますが、命に別状無しです」
「そうか」
魔獣のいる方を向く。そこには円を描くようにまだ石柱が伸びていた。おそらく、フェルメールたちがあれやこれやと触っているうちに、魔獣の起動スイッチのようなものをたまたま押してしまったのだろうか。
実際どういう仕組みなのか解らないが、あれだけの巨体、そこまで長時間動き続けられる道理もない。それに目標を見失えば動かなくなるのか、追撃の気配も感じられない。ギルドに報告をする必要はあるだろうが、破壊が現実的でない以上、ひとまずは放置するしかないだろう。
「いやー!一時はどうなるかと思いましたねー!ほんとっ、間一髪!わたしたちっ!もしかしなくても持ってたりしませんかっ!?」
「えひひ、あたし、途中から寝ちゃっててよく分かんなかったけど、うん。なんか運良いかも、あたしたち」
千寿流が能天気にそう答える。
あれから数日間、休憩を挟みながらようやく街に戻ってきた一行は、ホテルの一室で疲れた体を癒すことにした。
「でも砂漠はやっぱり、あたしにはまだきついみたい。あたし、始めは砂なんか少しぐらい吹いてても問題ないでしょ、って思ってたもん」
風太はベッドサイドの椅子に腰掛け、窓から見える街の風景をぼんやりと眺めていた。
「暢気なもんだな。フェルメール、アンタを責めるわけじゃねえが、千寿流は自分だけ助かりゃ良いって考えじゃねえんだよ。誠意は伝わったが、コイツはアンタが傷つくのも見たくないってこと、覚えときな」
そう言った後、風太は「っふ」と自傷気味に笑う。どの口で説教を垂れているのかと、自分自身に呆れていたのだ。




