人外VS人外5
けれど、夜深はその選択を取ることが出来なかった。
友人と呼べるような間柄ではなかったが、友人以上に彼の境遇を理解していたから。
「もし、俺らには選択する権利があって、それぞれ自分の好きな道を選び取ったとする」
そう時矢が言うと、目の前の横一列に彼の分身だろうか?何十人もの時矢がずらりと現れる。完璧なコピー、いや、全てが本物なのか。見た感じでは本物を見分けるのは不可能だろう。ざっと見回すだけでも百人、いやそれ以上の数だ。これも彼の能力なのだろう。
「プランA、プランB、プランC、百通りでも千通りでもええ。その先に辿り着く答えは皆違うと云えるか?」
「いっしょだよ。この惑星はもう長くない。昼夜寝ころんでいたって、東奔西走どこを駆けまわったとしても同じだ。滅び、それ以外はない」
夜深は即答する。すでにその答えが書かれている台本を用意されていたかの如く、その解答に何の迷いもなかった。
「俺はこの惑星に来て学んだんや。本を漁り知識を増やした。スポーツに打ち込み汗を流した。仕事に従事し、誰かのために働くことを覚えた。様々な場所に赴き、特産と云われるあらゆるものを食べつくした。誰も考えたことのない発明をして特許を取ったり、何かを想像し創ることに精を出したこともある」
溜め込んでいたものを継ぎ接ぎに吐露する。カナにも言ったことのない時矢の本心だった。
「なら、なんでそないなことをするんや!?それもこれも全部意味の無いことやったんちゅうんか!?」
そんなこと、自身が一番理解している。何の意味も無かった。自分が自分であるために行ったこと。だけど、それで何一つ満たされることは無かった。コップ一杯の量ほども満ちることはない。
だから、答えが決まっている問。自身の中で決着している問。だからこそ、目の前の男に風穴を開けてほしくて訊いてみた。いつまで経っても満たされないコップに罅を入れ、溜まっているモノを全部溢れさせて欲しかった。
けれど、その答えは期待しているものとは違った。
気づけば立っていることさえできない程に心が弱っていた。膝から崩れるように地面に両手をつく。想いはどこにも出られない。袋小路の檻の中を出口はどこかと行ったり来たり、延々と飛び回るだけ。
崩れ落ちた時矢を、百を超える時矢が冷ややかな眼差しで見下ろしていた。
「意味は在る。緩やかに向かう死の途中下車だよ。だから、意味は在ってもそこに深い意味なんて無いんだ。ただ、疲れて休みたいから足を運ぶだけ。ただ。ただ、それだけだよ」
「それが因果っちゅーことか?」
「ああ。だってその為にここにいるんだろ、僕らは」
夜深は崩れ落ちた時矢に向かい右手を差し伸べる。目の前の男は自分と似ている。だから、きっと何人もの罪のない人間を殺めているだろう。
けれど。友人と呼べるような間柄ではないけれど。今だけは。この今だけは、手を差し伸べるぐらいのことをしても、罰は当たらないだろう。そう思った。
「アホ抜かせクソが」
時矢は低く吐き捨てる様にそう言うと、差し出されていた右手を払いのけ立ち上がる。
「ホンマ下らん。ホンマしょーもない。因果?世界線の収束?アホか。んな不確定な要素勝手な思い込みにすぎん。ンなもん決まっとるんやったら、人生やり直しが利かんことに後悔することもないわボケが」
気がつくと、あれだけ大量に並んでいた時矢のコピーがその皮膚を老化させ、この世の終わりの様な表情で、絶望しながら朽ちていくのが見て取れた。
「ええか、鬼竜院。決まっとる未来なんぞ無い。やり直したんならやり直しただけの結果があるっちゅーもんや。そないクソな考えは、火葬場にでも突っ込んで燃え尽きとけ」
時矢のコピーが一斉に燃え上がる。辺り一面に人体が燃え焦げる様な異臭が漂う。鼻を苛む強烈な臭い。どうやら並んでいたコピー体は全て本物だったようだ。




