人外VS人外3
空には変わらず紅い雲が浮かんでいる。当然の如く煮えたぎる様な紅い色の雨も降り注いでいる。しかし、その雨は道端に生えている街路樹に降り注いでも燃え上がることはせず、ただ普通の雨のように滴り、地面へと吸い込まれていく。まるで夢でも観ているかのような気分だ。
「十方くん。君の異能もし――」
時矢に問いかける夜深だったが、その言葉を最後まで言い切ることは叶わなかった。夜深の身体ごと、斜めに両断されるよう身体が抉られてしまったからだ。
「けど、こない程度では――」
「――死なないかな」
夜深の斬り落とされた上半身が地面の影に吸い込まれると同時に、下半身を起点に、何事も無かったかのように元通り再生する。
(は?は?は?)
来希の心の中で何度も疑問が無遠慮に攪拌する。今すぐ声に出して叫びたくなるほどに。
(いやいやいやいや、マジかアレ!?だって今真っ二つ!上と下にきれいに!血も溢れることなく!それが瞬きする間もなく完璧に元通りにっ!?)
目の前で繰り返される異能の行列に思考がついて行かない。処理が追い付かない。
確かに異能は何でもありだ。自分のくだらない能力に比べたら、あたしの知らない物だらけの世界だと思う。けど、それにしたってあまりにも逸脱、異常すぎる光景だ。目の当たりにしても信じることが出来ない。
信じることが出来ない。目の前の非常識を。
(そうか!あの二人の異能、もしかしたら相手に幻覚を視せつけるものかもしれない!で、お互いがお互い、その能力を知っているからあんなに意に介さず戦える!ってことかぁ?)
いやそれは違う。それだとしたら疑問が残る。
さっきの糸目のお兄さんが使った痲宮殿という技。手印を組む際何かが来ると思って、とっさに魔装による防陣を張ったから耐えられたけれど、もし張るのが一瞬でも遅れていたら、あたしも持っていかれていた。多分、バラバラ。それは想像に難くない。
つまり、脳に作用して幻覚を視せる能力じゃ無いということか。いや、発動のトリガーが『自身が認識した相手』ではなく『相手が自身を認識した』ということなのであれば成り立つか。
ああ、クソ、異能ってのはなんでこう格差があるのか。認識したら幻覚を見せるだけで相手を無力化、殺せるなんて強すぎないか。
「なんや、お前さん、不死身なんて冗談やないで。最初から試合にならへんやないか」
「君だって、『この空間には十方時矢という人物の死の概念が無い。』という空間を構築したんでしょ?ああ、君の能力について僕は全く知らないのだけれど、合ってるかな?」
互いが自身の能力で死と云う概念を超越している。確かにこれでは決着の着きようがない。
「ははは、止めにしようか、十方くん。これ以上は何をやっても無駄みたいだ。僕も攻撃が効かない相手を延々とサンドバッグみたいに殴ることはしたくない。無駄な事はさ、出来ればしたくないんだ」
「せやな。それ、賢明やで。俺も生き返るゆうても、人を無暗に殺し続けるようなしょーもない趣味はあらへんわ」
お互いがお互いを殺せない。であるのならばこの戦いに決着は無く、何の意味も生まれはしない。そもそも夜深も興味半分。時矢の力がどれほどのものか確かめたかっただけ。
本当に上下関係を決めようなどとは思っていない。というよりも決める必要性が無いのだ。どんな方法を取ろうとも、最終的に行きつく場所は同じなのだから。
協力し合うことはあれども、横槍を入れる意味は無い。
「数時間大丈夫とは言うたけど、大技連発したら思ったよりもガタ来るわ。この魂が定着せんようになった時どうなるんか興味はあるけど、リスク過多やもんなぁ?ま、そろそろ終わりにしてもええか?」
「ん、ああ、もちろん。僕もちょっと疲れちゃったかな」
実力は確かめたかったけれど、自害されて自分は耐えれたからこっちの方が上、なんて決着は望むところではない。これはあくまでも純粋な力比べなのだ。
「人待たせとるんや。ほな、俺はこの辺でお暇させてもらうで」
そう言うと時矢は踵を返し去っていく。
(は、はは。ようやく終わったのか)
去っていく時矢の姿を物陰から確認し、来希はホッと胸を撫で下ろす。
正直生きた心地がしなかった。こんな経験生まれてこの方初めて。今後の人生でも一生に一度、あるかないかだろう。その一度が今消費されたのだからある意味では幸運なのかもしれないな。
物事をポジティブに考えることにし、見つからないよう自身もその場から離れることにした。
____リンリンリン
(は?鈴虫?え、なんで?)
鈴虫の鳴く音がする。
耳に届く音は大きくない。痲宮殿の範囲の外側、どこか遠くで鳴いているのだろう。
今は十月の初め。時期的には何もおかしくない。鈴虫の心地よい音色をBGMに聴きながら月を見上げ、縁側で一服をしたのなら、きっと心が洗われるのだろう。




