人外VS人外
(あの兄さんってあん時の人よね。あれ、小さな子たちと一緒じゃないっぽいけど)
只ならぬ雰囲気。何かがきっかけで爆発してしまうような、一触即発の空気感を醸し出す二人を物陰から窺うのは一人の少女。遊馬来希だった。
帽子につけられた銀学のエンブレムが太陽に反射する。そんな下らない理由で正体がバレてもつまらないと思い、帽子を脱いでしまうことにした。
「なんやお前さん。どういうつもりや?」
「これは提案。お願いって言ったほうが良いかな。君の同意を得られないと始める事すら許されないから」
夜深はゆっくりと距離を縮めていく。時矢はその様子を黙って見守り続ける。手を伸ばせば届く距離。夜深は手を伸ばし時矢の頬に触れようとする――が、しかし。
手を伸ばしてもあと数センチ。寸でのところで伸ばした手は制止する。それからはもう動かない。何をしようとも触れることは出来なかった。
「ほら、ね?」
観念したように伸ばしていた手を下ろすと、やれやれと言った表情でそう言った。
「何が言いたいんや?」
「いや、何。お互い思惑があるわけだ。肝心のところで水を差されたら堪ったものじゃないだろう?だから、ここらで上下関係をはっきりとさせておきたいと思っただけだよ」
「っは、何言うてんねん。俺らの在り方は互いに干渉できんはずやろ?同意なんて何の意味も有らん。俺が認めたところで理が殺し合いを許さへん」
夜深の提案を鼻で笑う。
「そういう意味の同意じゃないよ。僕はただ、君に自害してほしかっただけだ」
その言葉に目を見開き夜深を睨む。どうやら時矢にも、夜深が言っていることの意味が理解できたようだった。
僕たち外界の理には、互いの干渉を良しとしない天理が働いている。
其れは目に視えず、理解できず、干渉できず。
互いに関わるあらゆる行為は不干渉、この通り会話程度は出来るものの、傷をつけることはおろか、触れあうことさえ出来ない。そう決められているからだ。故に同士討ちは起こりえない。
ある日思った。
何故、触れ合うことが出来ないのか。
何を以て互いの存在を認識しているのか。
だから、悩み、行動した。自らが感じるものだけが本物だと。あらゆることを試し、そして理解した。臨死を介し、今際の際にて真理に至る。それは命のストッパー。生命活動を維持しているから干渉し合えないのだと。
この世界の理から外れているとはいえ、僕たちも生命だ。意識を閉じ、生命の活動を停止すれば、そこらに転がる石ころと何も変わらない。
だから、心臓を潰す。そして、それにまつわる臓器諸共すべて潰す。つまり、自害してしまえば互いの不干渉という理から、一時的に外れることが出来るというわけだ。
まあ、これは僕のイメージ。試してみないと分からないのだけれど、僕の考え通りならばおそらくは。
「僕も君も心臓が止まった程度で死ぬタマじゃないだろう?」
「せやかて死ぬのは案外簡単なもんやで」
「心臓を止めて、脳を潰して、他も全部潰して、どれぐらい生き延びられるかな?」
「まあ数時間は行けるんちゃうん?知らんけど」
数時間。思ったよりも短い。そう思った。
人の理から外れ、超人的な力を与えられ、人外に成り果てた末に得られるのがその程度の命なのかと。願わくば真っ当な人間として生きることが出来たのなら、僕は何を思い、何の為に生きるのだろう。
観て聴いて、理解をして、共感する。けれど、それはみんなごっこ遊び。人に化けて人に成った気で笑う、ただの御遊戯でしかない。
だから。
それは人間じゃないと分からない問題かな。
(は?何言ってんのアイツら?心臓や脳が止まっても生きていられる!?なんかのゲームって話。じゃないよね。だとしたらあんな真面目に語ってるの寒すぎるし)
来希は思わず漏れてしまいそうな驚きの声を噛み殺し、何とか冷静さを保とうとする。しかし、動揺全ては隠しきれない。その気持ちを反映するかの如く、靴が地面に擦れた時に出来たジャリっという音が鳴ってしまった。
(っく!?気づかれた?なら、逃げるしかっ)
何故偶然居合わせただけで逃げないといけないのか。具体的な理由は分からないが、本能がそう警告するのだ。ただ、幸いにも二人は会話に夢中だったようで――
「いいよ、十分すぎる暇だ。やろうか、十方くん」
「ええよ。ほな、始めよか。合図どうする?」
もう始まってるだろう?そう笑う夜深の手元で作られたのは、心臓を形作る不気味な手印。
「夜潜 冥道供 愚淨真臧痲宮殿」
太陽が息絶えるように空間を夜が埋め尽くす。どこまで行っても黒、黒、黒。見渡す限りの黒。
先ほどまで目の前に立っていた夜深の姿はどこにもなかった。
その空間の中では概念を侵食する。浸食は空間の中に存在する全ての生命に干渉し、されれば最後、体の組織が攪拌し、二度と元の姿には戻れない。生かすも殺すも自由、文字通り生殺与奪の全てを掌握する。
「俺もせっかちなほうやと思うてたけど、輪をかけて酷いやん自分。オリンピックやったらフライングやで?」
そんな絶望的な状況にもかかわらず、時矢は眉を顰めることもなく涼しげな顔でそう言った。
「君相手に手加減は失礼だろう?」
(ふむ、痲宮殿の形に違和感があるけど。ふふふ、なんだろうね、これ)
「さよか。____ほなら、俺も征こうか」
知らんけどはネタになってますが、日常で使うのはやめといた方が良いです。これは本当




