旧友との再会
「そう頬を膨らませないでください、カナさん。せっかくの端整な顔立ちが台無しですよ?」
時矢がいなくなったのを確認し、一息付けたところで竜司はカナに気遣いの言葉を掛ける。
「時矢はいつもはぐらかす。きっとあたしの事、ガッカリしてるんだ。使えないって」
そう投げやりに返すと、カナはその場でしゃがみ込み、人差し指で地面に絵を描き始めてしまった。
「滅多なことを言うもんじゃありません。突き放すのも愛。きっと、それがあの人なりの優しさなんですよ。その証拠に、十方くんはいつも傍にいてくれているのでしょう?それが何よりじゃないですか」
「……そうかな」
「はい、情報屋レイヴンが言うのですから間違いないですよ」
「そっか。ありがとう、お兄さん」
カナはそう言うと立ち上がり、竜司に向かって曇りの無い純粋な笑顔を作るのだった。
あの近衛千寿流とかいう小娘はタルトのお気に入り。聴いた話じゃ俺らの目的にも関わるオモロイもん見られるゆー話やったけど、その兆候はまるでなし。まあ、あの女の目的を考えると、出まかせ言っとるわけやないっちゅーのはホンマやと思うけど。
そのタルトについても行方が分からんままやけど、今会うても喧嘩になるだけ。ほとぼり、冷めるんかな。そう言う人間関係に関してはよー分からんわ。いくら本漁っても、まともな事書いてある書籍に巡り合ったこと無いからな。
「なんや、喧嘩別れしたカップルみたいやん俺ら。薄ら寒うーて全身鳥肌もんやけどな」
心中をぼそりと呟く。
別に声に出すつもりは無かった。ただ、口を衝いてしまっただけ。ただ、それだけだった。
「あれ、誰かと付き合ってたの十方くん。君も隅に置けないんだねえ」
その声に振り返る。
別に驚きはしない。知り合いだ。それも神出鬼没の。
だから、どこに現れて、どのタイミングで声を掛けられても驚くことは無い。
「鬼竜院。なんや、久しぶりやな。息災か、なんてオモロくもないか」
「あれ、まだ続けてたのかい?そのよく分からない関西かぶれの喋り方は」
「はぁ、お前も言うんかいな。俺の喋り方、そないおかしいん?」
参ったなという表情で頭をポリポリと掻きながらそう言う。
「鬼竜院に馬鹿にされるんなら、俺は演劇とかには向いてへんのやろうなぁ。密かにオモロそうとか思ってたんやけど」
そう言葉を交わす二人の間柄は、長年付き合いのある旧友のようにも、つい最近知り合ったばかりの気の合う友人のようにもみえた。
「しょうみ、大阪弁だの神戸弁だのようわからん。昔あった地域の言葉っちゅーんは分かるんやけどな。あそこら辺、エライことになっとるんやろ?」
「それも情報屋からの情報かい?今は規制だらけでまともに情報が得られない。風の噂くらいは聴いたことはあるけれど真偽は分からないよ」
わざとらしく笑顔を作る。その空虚な瞳にはおよそ感情というものが感じられなかった。
「ほーん。せや鬼竜院、知っとるか?大阪っちゅーとこはその昔“大阪の食い倒れ”ゆうて、食いモンがあまりに旨過ぎて、有り金全部はたいてしまうようなところやったんやて!聴いただけでワクワクしてくるのお!鬼竜院、お前の頭はコレ、理解できとるか?」
「ふふ、さあね、僕にはよく分からないよ。終った世界の事なんて知識を漁る意味も無い。壊れたオモチャは砂山に埋もれるのが世の常さ」
時矢の変わった言い回しに対して、夜深はそれに気を留める様子もなくそう返す。
「はあ、まあ、そうやけど。お前さん、冷めすぎやん?」
「歴史を形作るのは土地でも文化でもない。そんなものには何の価値もない。歴史を形創るのは、いつだって人間だよ。どんな事象が在ったとしても、それを記録する人の手が無ければ何の意味も成さないんだよ。だから、人の命は代えないんだ」
「買えない?そらそうやろ。金で買える命なんざ何の価値も有らへんわ」
「君はそれにふさわしい人間なのかな?」
そう言いながら夜深が頭に被っていたフードを脱ぐ。そのままゴミ箱にティッシュを捨てる様、無造作に放り投げると地面が真っ黒に染まり、そのままフードを飲み込んだ。
その様子を見て眼鏡のブリッジに指をかけ静かに調整する。レンズに反射する彼の目は鋭く、思索にふけっているようだった。




