遺跡はその口を閉ざす
あれから数日。用意していた食料も三分の一が尽きようとした頃。
「あ、見てください!ほらほら!前方!」
休憩は何度も取ってはいるものの、長時間の悪路により既に心身ともに疲れきったあたしは、特に期待もせずに、返事もしないまま気だるげに言われた通り前方を見る。
なんでこんなに気だるげかと言うと。この砂漠に入ってから何度も聞いたセリフ。
『あ、見てください!ほらほら!』
その都度期待を込めて重い首を上げるが、見間違いだったり、ただの石柱だったり、果ては魔獣だったりと碌なことが無かったからだ。
その証拠に風ちゃんも何も答えない。たぶん、あたしと同じ気持ちなんだろう。
というか、何でこんなにアリィちゃんは元気なのか。あたしたちを先導してくれているし、疲れて動けないあたしを何度もおんぶもしてくれる。しかも、あんなに重たい武器を持っているにも拘らずだ。
あたしも少しぐらいなら動かせるかもしれないと思って、一度持たせてもらおうとしたけれど、ビクともしなかった。まあ、百キロ近くあるという話だし、当たり前と云えば当たり前なんだけど。
アリィちゃんはきっとお化けなんだ。メンタルお化け。一流のトレジャーハンターともなるとこれぐらいの鋼のメンタルが必要なのかもしれない。豆腐メンタルのあたしにはちょっと酷な話だな。
(どうせまた建物が崩れた柱とかなんでしょ、もう)
「おい、千寿流。行くぞ」
「へ、風ちゃん?」
そう言って風ちゃんはアリィちゃんの方へと歩を進める。とりあえず、あたしも置いていかれないよう、その後を追うことにする。
「見てください!これ!今までとは違いますよね!ここが目的の場所なんですよ!きっと!あ、気を付けてくださいね!流砂に巻き込まれたら助かりませんから!」
惑星の綻びを視るのはこれが初めてではないが、何度視ても圧巻だった。
砂漠の真ん中に特大の刃物で斬りつけたように大きな溝が出来ている。その穴は底が視えない程に深く拡がっていた。
ところどころに浮かぶ岩片。それを伝う流砂。その風景を写真に切り取ったのなら、まるで異世界に迷い込んでしまったような錯覚を覚えるだろう。
これも英雄変革、英雄クラウン・ベルベットによる糸紡ぎの異能。砕けた惑星の世界縫合による弊害だというのだろうか。
「二人とも、こっちに来てください!この扉、怪しくありませんか?」
アリィちゃんがそう言って指差した先には、石造りの建造物が建てられており、その扉にはいかにもといった意匠が彫られていた。大きさは正面の扉から続く通路と思わしき先には、少し大きめの一軒家程度の空間が広がっている。
既に主要な部分は崩壊してしまっているのか、これを遺跡と呼ぶにはあまりにもお粗末である。
いや、病院の地下のことを思い出してみろ。
地下鉄が通っているであろう、都市の真ん中に出来た空間だとは思えないぐらいの世界が広がっていた。この世界に常識は通用しない。だから、見かけで判断するのは早計なのだ。
ちなみに地下鉄に関しては学校の授業で、知識で知っているだけで実際に乗ったことは無い。たぶん、ここにいる風ちゃんとアリィちゃんも乗ったことはないだろう。
この時代、地下鉄などの交通機関に関しては、魔獣による被害で地盤が破壊されていたりとまともに機能している路線が少ない。
地下ともなると文字通り逃げ場がない。その為、機能している路線も安全のために、運行を休止しているところがほとんどであるからだ。
ちなみに地下鉄は昔あたしたち人間の、主な交通手段の一つとして確立されていたらしい。だから、生きているうちに一度は乗ってみたいものだ。
「うーん、完全に閉まってますね。押しても引いても横にスライドさせようとしても駄目です」
「おまけに鍵穴らしいモンも無いしな。こりゃ無駄足じゃねえか?未踏の地っつっても文化遺産みたいなもんだろ。無理やりこじ開けるにもいかねえわけだしな」
風ちゃんはそう言うと扉から離れ、近くにある丁度良い高さの石に腰かける。
ここまで結構歩いた。途中、魔獣に襲われることもあったし、それなりに過酷だったと言えるだろう。それなのに謎の遺跡と穴に落ちる流砂が視れただけ?そんなのあんまりである。




