砂漠に住む砂トカゲ
魔獣の出現。相手の規模にもよるが、この視界の悪さだ。砂嵐の中でも自由に動ける地の利が相手にあるとするならば、その時点で圧倒的不利な立場に立たされていると言っても過言ではない。
実践的な戦闘経験、知識がほぼない千寿流はもちろん、戦闘経験がある二人でも視覚からの攻撃には対応できないだろう。
「ふぅ、休憩を見計らってやってくるなんて、躾がなっていない魔獣ですね」
「逆だろ。気休めとはいえ障害物になる石柱が建ってる。石柱を背にすれば相手の攻撃方向を絞り込むことが出来る」
背にした石柱ごと破壊されるケースも考えられる。ただ、風太はしっかりと視認したわけではないが魔獣の姿を確認している。
その風太が石柱を背にしろと言っているのであれば、そこまで巨大な魔獣ではない。アリシアは咄嗟にそう判断し、千寿流を連れ、大き目の石柱を背に辺りを窺うことにする。
(気配はないですね。わたしたちに飽きてどこかへ行ったのか。それとも)
ボコボコ、と。微かな地鳴り。
「地面だッ!避けろッ、フェルメールッ!」
その言葉に千寿流を抱え、前方へと飛び出すように前転する。
「ッ!」
姿を現したのは全長三メートル程度の巨大なトカゲ。表面は砂漠の中でも乾燥しないように、ゴツゴツとした強固な皮膚で覆われていた。
砂トカゲとでも云うのだろうか。トカゲというには大きすぎる体躯であるにも関わらず、こんな劣悪な環境でも驚くべき敏捷性を発揮していた。
砂トカゲは地面から飛び出した後、その流れで石柱を蹴りつけ、攻撃を回避したアリシアに向かって、その鋭い牙が生え揃った口を大きく開けて突進する。
(っく、不味いっ!)
反撃しようにも間に合わない。せめて千寿流だけでも守ろうと胸の下に抱え、覆いかぶさるように体を丸める。その時。
「crystalEdge!」
間を割り込んだ風太が、その強固な首目掛けて捻りを加えた刃の如き踵落としを放つ。吹き荒ぶ砂嵐の音にも負けないような風切り音が響き、彼の踵が一瞬、水晶のように輝いた気がした。間を以て放たれたその一撃は的確に命中し、相手の体勢を崩す。
「ぎゃぁごぉっ!?」
砂トカゲは驚き、飛び跳ねるように体を丸めそのまま五メートルほど飛び退き、再び砂の中に潜っていく。
「クソ!硬ってぇなッ!まだ獲れてねえ。ブチ切れたか分かんねえが第二波が来るぞッ!」
風太が体勢を整えるよう促す。その言葉にアリシアたちも起き上がり周囲を警戒する。
「風太、ちずちずを抱えて敵の攻撃範囲から逃れてください。風太の異能なら簡単でしょ?」
「わーった」
アリシアの言葉を理解し、即座に反応する。
「え、あ、アリィちゃん?ちょ、うわわっ」
「行くぞ。砂が目に入らねえよう眼ェ瞑ってろ」
そう言うと、ところどころ立てられている石柱を器用に蹴りながら高台へと跳躍した。目を瞑っていても感じられる、その風を切る様な疾さを千寿流は肌で実感する。
「さて、さっきは下から狙われて少し驚きましたけど、来ると解っていれば問題ありませんね」
わたしは懐から色とりどりの宝石を少量取り出すと、その中から赤色の宝石を選び出し、無造作に地面に放り投げる。無造作に行うのは予想外にも相手の知能があった場合の保険。
今放った宝石。これは宝石魔術の基礎中の基礎、範囲式自動索敵射撃。魔装陣の一つ、制約型時限式魔装陣を簡易化したもの。
分かり易く言うと、わたしの言葉が鍵となり発動する設置型の爆弾のような物ですね。
____制約による性能の底上げ。
魔装陣は制限や、制約によって規模が大きくなるといった複雑な仕組みを構築することが可能だが、宝石魔術にそこまでの条件を付与することは出来ない。なぜなら宝石魔術の威力の規模は宝石の価値で決まるからである。
今放り投げたのは四大宝石のひとつ、ルビー。ピジョンブラッドなんて高価なものではないが、こんな小さなサイズでも十万、二十万はくだらない。
暫く辺りに耳を済ませ警戒するアリシア。劣悪な環境下での警戒。神経が少しづつ蝕まれる。もうどこかに行ってしまったのか、そう気を許すであろうその瞬間――
ボコボコ、と再び地面が悲鳴を上げる。
(来ますっ!)




