北の砂漠
砂除けのジャケット。食料、飲み水を用意し、千寿流たちは砂漠へと足を踏み入れる。当然ながら誰一人歩いている者などいない。
一面に広がるのは延々と続く砂の海。ところどころ建物の残骸はあるが、その殆どが朽ちてしまっている。
見通しの良いはずの景色も吹き荒れる砂嵐により、遠くまで見渡せるはずの地平線が消えてしまっているようだ。
千寿流は荒廃した大地に関して横浜市でも経験済だが、それとは似ている様で全く違う。
横浜は気温こそ高かったが、このように砂嵐などは吹いておらず、見渡せば自分たちが歩いてきた方角が一目瞭然で、迷うようなことなどなかった。しかし、平塚市に吹き荒れる砂嵐は向かうべき方角、そして、その強烈な砂嵐により、歩いてきた足跡すら一瞬で消し去ってしまう。
時折、風が砂を巻き上げ、耳元で轟音が響く。近くで大きめの声を出さないとまともな会話すらできない。
ここではどうやらスマホの電波も届かないようで、もし互いが視認できなくなるほどに離れてしまったのなら最後、再会することは出来ないかもしれない。
それに明らかに街にいた時とは風の強さが違う。それも波のある変化ではない。砂漠地帯に足を踏み入れた途端である。
「これはっ、異常ですね!噂には聴いていましたが、想像以上というか、誰も寄り付かないのも解った気がします!」
アリィちゃんが何か言っている。どうやらこの砂漠の気象に関してのことの様だが、いまいち聴きとれない。
「っち、つってもこれはイレギュラーにもほどがあるぜっ!もしかしたらっ」
「ええ!魔獣の仕業っ!かもしれませんっ!」
今度は聴こえた。魔獣の仕業。この砂嵐を起こしているのが魔獣だとでもいうのだろうか?てっきり英雄変革による異常気象だとばかり思っていたけれど、確かにその可能性もあるかもしれない。
「ちょ、ちょっとっ!休憩っ!しない!?」
二人にも聴こえる様に精一杯声を張り上げる。
砂漠に足を踏み入れて数十分程度しか経っていないが、劣悪な環境での行軍は想像以上に負荷が大きい。それも大人であればまだしも、千寿流は子供である。長時間の移動はかなりの負担だろう。
「オッケーですっ!って言っても周りに何もない、砂漠のど真ん中ですからねっ!ひとまず砂嵐の直撃を避けられる石柱がある場所を目指しましょう!」
「え?えぇ~!?」
「大丈夫ですっ!ちずちずはわたしがおんぶしてあげますからっ!」
「で、でも、それ持ってあたしもおぶれるの?」
千寿流はアリシアが肩に抱えている大きな機械で出来た槌を指差す。
持ち手の部分は棒状だが、先端に機械の塊がくっついており、コードやら何やらが何本も通っている。恐らくは武器なのだろうが、とても重そうだ。見た感じ百キロぐらいありそうな重量感を放っている。
「むしろ逆ですよ!こんな重い物を持っているんだから、ちずちずの軽さなんて負担じゃないってことですよ!」
こうしてアリィちゃんの背中におんぶさせてもらうこととなった。なんだか悪い気もしたが、アリィちゃんの様子を見ると全く堪えていないようだった。
そうか、アリィちゃんはトレジャーハンターなんだ。色々なところに行っていると言っていたし、このぐらいの悪環境は経験しているのかもしれない。
「フェルメール」
「ん、風太?今何か言いましたか?」
「……疲れたんなら変われよ」
「すみません、砂嵐が強くてっ。もう一度言っていただけませんかっ!?」
「っ。何でもねーよ!遅れんなよっ!突っ立ってるだけで体力奪われんだからなっ!」
照れ臭そうにそう吐き捨てる様に言うと、置き去りにしない程度の速さでアリシアの前を先導する。吹き付ける砂の盾となり、少しでもアリシアにかかる負担を減らしてやろうという配慮だった。その気遣いはアリシアにも伝わったようで――
(ふふふ、優しいですね風太は。聴こえなかったのは本当ですけど、今の態度で何となく言ったセリフが想像ついちゃいましたよ)
一行はそれから数十分、砂嵐吹き荒ぶ砂漠を行軍し、建物の残骸となる石柱を発見し腰を落ち着ける。
「ふー、なかなかハードですね。悪環境を歩く事には慣れてますけど、複数人でとなるとやっぱり勝手が違いますね」
「あう、やっぱり、あたし、足手まとい?」
千寿流がばつの悪そうな表情でアリシアを視る。
「そうですね、けっこう堪えますね。なんて、言うと思いましたか?」
「へ?」
手のひらをお化けのポーズの様に作る、アリシアの悪戯っぽい仕草に面食らう。
「覚えてませんかちずちず?遺跡に行きたいって言ったのは、他でもないわたしなんですよ?そのわたしが文句なんて言える立場のはずないじゃないですか!むしろ、こんなところに連れてきてしまったっていう、申し訳なさのほうが大きいですよ!」
「え、あ、うんと。あたしは全然迷惑に思ってないよ?」
「えへへ、ありがとうございます!それに、それを差し引いても迷惑なんて思うはずがありません!だって、こうして一緒に笑い合えるのは、ちずちずがいてこそですからね!風太も口には出さないけど、まんざらじゃないと思いますよ」
千寿流の顔がぱぁっと笑顔になる。何もできない自分でも、アリシアたちを元気に出来ていると思うと、自然と笑みが零れるのだった。
「おい、お前ら、気引き締めろ。魔獣だッ」
その時、辺りを見回りに行っていた風太から当然そう告げられる。




