あたしの冒険譚
「そっか。アンタも真っ当なんだね。いいよ、その背後の暗闇に負けないよう、精一杯明るく振舞ってくれ」
「背後の暗闇?」
「気にしないでくれ。ちょっと不穏なことを言って不安に駆り立ててやりたい年頃なんだ」
なんですかソレは。かなり陰湿な年頃ですね。
「他に用件は無いんですか?てっきり一戦交えることになると思ってたんですけど?」
「だから言ったろ、手は出さないって。信用無い、あたし?でもまあ、止めときなって。あたしとやり合ったら全身骨折じゃあ済まないかもよ?」
腕にはかなり自信がある、ということですか。それにわたしと同じ。今のところ、風太が言っていたような絶対に勝てないという実力差は感じられませんが、勘はあちらの方が良さそうですし、下手に手を出さないに越したことは無いですかね。
「じゃあ、そういうことで。ああ、もうアンタたちの前には顔を出すことは無い、と思うよ」
「ま、待ってください!その、ちずちず、いえ、狐の子と同じような子に心当たりはありませんか?同じ雰囲気、その、同じ顔つきの」
「さあ、知らないね。けど、旅をすれば何か見つかるかもね。今あの子に必要なのは景色を観る事。あたしはそう思うよ」
旅をする?景色を観る?それで何か見つかる?
「それは、一体どういう意味ですか?」
「ただ座って待ってるだけじゃ何も変わらない。自分から動くことで何か見つかることもある。あの子、まだ何にも知らない子供だろ?だから、いろんなものを見せてあげなよ。こんな世界でも探してみれば、面白いもんなんて意外とそこら中に転がってるもんさ」
「……」
そう不敵に笑って見せると、メルルはフードを被り直し、背を向ける。
「この世界はさ、どこに居たって危険なんだ。だったら面白いもん好きなだけ見て、楽しんで逝けるのが一番じゃないか?」
メルルは最後にこちらを振り返り、フードの先を指で押し上げ、それだけ言うとそのまま去っていくのだった。
「旅、冒険、ですか」
真意は分からない。本心の様にも適当にはぐらかされたようにも思える。しかし、記憶喪失の彼女にとって、その手がかりを探すことこそが、少女の存在に至る道標になるかもしれない。アリシアにはそう感じた。
「アリィちゃん!どうだったっ!?」
ちずちずが駆けてくる。何も手掛かりは見つからなかったといえば、ガッカリさせてしまうでしょうか。正直を言うと、ちずちずの悲しんでいる姿は見たくありません。けれど。
「あぅ、見つからなかったんだよね。ううん、あたしたちも何にも見つけられてないし、そんな顔しないでよっ」
しまった。悲しんでいる顔を見たくないといった傍から落胆させてしまいましたね。
トレジャーハンターであり、ムードメーカーでもあるこのわたし、アリシア・フェルメールはいつでも元気が一番の取り柄なんですから、そんな顔はいけませんね!
「腹減ったろ。どこか入ってメシにしようぜ。何、そんな簡単に見つかるこたあ無えよ。気楽に行こうぜ」
「そうですね!午後からも頑張るためにもいっぱい食べて活力を溜め込みませんと!いきましょう!バイキング形式のところでいいですか!?」
「好きにしてくれ」
食事を終えた一行は昨日集まっていた広場に再び戻っていた。
アリシアから提供された情報、“フードの少女はこの街にはいない可能性がある”という話を聴いたので、いったん話し合うために戻ることにしたのだった。
この街にいない可能性がある、という漠然とした情報。
何故そうなのかとか、誰から聴いたのか、その話に信憑性はあるのか、といったツッコミどころが多い情報であるにも関わらず、千寿流は二つ返事で“じゃあ、考え直さないといけなきゃだよね。みんな、振り回しちゃってごめん”と言ったのだ。
(ちずちずはわたしたちのことを信頼してくれている。なら、その期待に応えなきゃ、ですね)
「ちずちず、風太。二人に相談があります!」
「へ?」
「……」
二人が一斉にアリシアのほうを向く。




