アリシアとメルル
さてさて、風太が襲われたという女性はどんな方なんでしょうねえ。
風太は対面して敵意は感じなかったとは言っていましたが、性別の垣根があるんです。風太はその辺りの駆け引きは得意そうじゃないですし、この目で視てしっかりと見定めることにしましょうか。
「なあ、アンタ。これ見よがしに人気の無いところに向かってさ、それにその格好なんだい?襲ってくださいってアピールかい?」
「いえいえ、気を利かせて人気の無いところを選んであげたんじゃありませんか。こちらの気遣いに感謝してほしいぐらいですけど」
振り返るとフードを被った何者かが立っていた。
恐らくこの方が風太の言っていた女という方なんでしょうね。身長は百七十近い。あ、そう言えば名前は訊いていませんでしたね。何という方なのでしょうか。
「あの灰色の髪のボーヤに色々聞いているんだろう?挨拶とかは省かせてもらってもいいよな?」
「あ、いえ、あなたのお名前は訊いていませんね。わたしはアリシア・フェルメール。トレジャーハンターをやっています!」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ?あたしはメル、いや、メルルって呼んでくれ。そっちのほうが可愛いからね」
自らをメルルと名乗る女はフードを取りながらそう言った。
そっちのほうが可愛いって偽名ってことでしょうか。まあ、公に出来ないような理由があるのでしたらしょうがない、いや、そういうのって事前に決めておくもののような気がしますけど。
「アンタの噂に関してはちょこっとだけど聴いてるよ。トレジャーハンターの傍ら、未開拓の地を回ってるんだって?いつ英雄変革で地形が変化するかも分からないのにご苦労なこったよ」
「え、だって未知のものってワクワクしませんか?まだ誰も見たことの無いものを発見する。トレジャーハンターにもいえることですけど、その何物にも代えがたい興奮ってけっこう病みつきになるんですよね」
「ああ、分からないでもない。けど、生活、というか人生をかけてまでやることじゃないだろ。外には魔獣がうじゃうじゃ犇めいているんだ。いつ後ろから刺されたって文句も言えない」
このメルルという女性の言うことはもっともですね。自分でもトレジャーハンターなんて馬鹿げてる職業だと思います。確かに宝石も、骨董品も、金目のものも好きですけど、命がそれらと釣り合うかといわれると簡単には答えられない。
そもそも同じ天秤で釣り合うものじゃないのだから。命だけは、ね。
「お兄さんに聞いているなら話は早いだろう、お姉さん。いやアリシアさん。あたしはアンタと争いに来たんじゃあない。もちろん向かってくるならその限りじゃないけれど、あたしからは絶対に攻撃を仕掛けない」
風太の言う通り、ですね。
そもそも自分より強いといった相手と交えて風太は傷一つ負っていなかったんです。相手からは一度も攻撃を仕掛けられなかったと考えるのが普通でしょうか。
「それで、わたしに何の用なんです?」
「ああ、そうだったね。アリシアさん、アンタ今小さな狐の子といっしょに行動してるだろう?あの子の事をどう思っているか聴かせてほしいんだ」
これも風太に聞いていた内容と同じですね。ですが、これではまるで命を狙っているというよりは。
「ちずちずに関しては知り合ったのはつい最近です。まだまだわたしの知らない一面がいっぱいあると思いますが、とりあえず。すごく可愛くていい子です!きっと、悪いことなんて出来ないし、知らないんでしょうね」
「その子が将来、悪事に手を染めるとしたら?」
「染めないです!」
「いや、仮定の話なんだが」
呆れたようにくるっとカールした髪に、手を絡ませながらメルルが言う。
「分かってますよ。けど、気分の悪い仮定話ならお断りですからね」
それにそんな仮定に意味は無いです。人は未来を予知出来ても、起こりえる全てを決定することは出来ない。世間でいう未来予知なんてそんなもの。当たるも八卦、外れるも八卦なんです。
人の言うことに従って後悔するくらいなら、自分を信じて後悔をするほうがよっぽど良い。それなら、あの時のわたしは馬鹿だったんだって納得することが出来ますからね。
だから、わたしは自分を信じます。
ちずちずが悪事を働くことなんて絶対に無いと!




