次はわたしの番ですね!
例えるなら、あの糸目のオッサン。鬼竜院夜深。アイツならもしかしたら。けど、なんとなく。まだその時ではないと感じた。
「オレは頭が良くない。だから難しいことを考えることはしねえ。思ったことはそのまま話す」
「はい」
先ほどのお茶らけたムードから一転、アリシアは風太の話を静かに聴くと短くそう返答した。
「アイツの目的は詮索。千寿流のは目的の一つかもしれないが、その周りの人間がどういった人物かを探っていたように感じた」
「というと?」
「単純だろ?オレより強えんだ。アイツの命を狙ってんなら手段選ばずの皆殺しが一番早い。アイツの実力があれば、オレもアンタも五分も掛からずに殺されてるぜ」
「なるほど。じゃあ、その考えで行くと、次はわたしのもとにやってくる可能性が高いというわけですか。次はさりげなく、わたしだけで単独行動をしてみましょうか?」
納得して手でポンと叩くと、アリシアはケロリとした表情でそう言った。
「なんでだよ?」
「なんでだよって、何がですか?」
「あの女は間違いなくアンタよりも強い。もしかしたら命を狙われてるかもしれねえんだぞ。オレの時だって只の気まぐれかもしれねえ。怖くねえのか?どうしてそう安請け合いが出来る?」
風太はアリシアのその飄々とした表情にどこか自身の姉の姿を重ねていた。
姉の風花は自身の身に危険が及ぶとしても、見ず知らずの人間を助けようとする生粋のお人よしだ。姉は強いが、その結果痛い目に遭うこともなかったわけじゃない。
オレは昔からそんな漫画の熱血主人公みたいな姉の性格が好きになれなかった。たった一人の姉を心配する“オレ自身”の心を蔑ろにされているような気がしたから。
だから、イラついた。
オレの勝手で、目の前のフェルメールと姉を重ねて身勝手にイラついたのだ。
「いや、いい。別にどうしようがお前の勝手だからな。オレは寝る。とにかく、現段階で命を狙われるようなことはねえ、そう思っただけだ」
「わたしはっ、風太の言うこと、信じただけですっ!」
窓を開いた背中越し、少し離れた位置からそう声を掛けられ、首で振り返る。
「だって、仲間じゃないですかっ。出会って間もないですけど、風太の事、良い人って認定しちゃってますから!だから、信じますよ!」
駆けよって右手を差し出される。
「あ?」
「何って握手ですよ、握手!仲間のしるしってやつです。どこまでかは分かりませんけど、とりあえずよろしくってことで♪ね?」
「っは、誰がそんな油でテカった手握るかよ。アンタもさっさと寝ろよ。じゃあな」
そう言うと、差し出された手を無視して風太は寝室に歩いていく。
「む、むきーっ!なんですかその態度は!わたしがせっかく仲間のしるし的に、良い感じで終わらせてあげようと思ったのにっ!言うに事欠いてテカってるって!デリカシー無さすぎですっ!」
その次の日。騒いでいる女の声で眠れなかったとの苦情がいくつも入り、従業員に注意をされるアリシアなのであった。
「あれ、アリィちゃん、なんだか気分良くない?」
「い、いえ、大丈夫です。はい」
「フン、自業自得だろうが」
朝の身支度を済ませた一行は、チェックアウトの後ロビーで次にどうするべきか話し合うことにした。
「どうしよう、今日も聞き込みかな?昨日とは違う場所に行ってみる感じ?」
「そうだな。とりあえずそうするか。フェルメール」
「はい!では今日はちずちずは風太といっしょに行動してくださいね!何かあれば直ぐに連絡くださいね!それでは、行ってまいりますっ」
アリシアはびしっと敬礼のポーズをとると、踵を返し反対側へと歩いていく。
「えひひ、アリィちゃんってすっごく明るくて楽しい人だよね。ねえ、風ちゃん」
「……」
「風ちゃん?」
「ああ、悪ぃ。そうだな。じゃあ、オレらもさっさと行くか」
何かあればオレのスマホに連絡が来るようには言ってある。
とは言っても連絡がきました、間に合いませんでしたでは話にならない。騙している様で千寿流には悪いが、ある程度ルート決めをしてすぐに駆け付けられる範囲で聞き込みをするしかないな。
聴いたところによるとフェルメールは能無し。異能を持っていない。
しかし、そこは名の通ったトレジャーハンター。自前の宝石を媒体とした簡易魔装術。そして同じく宝石を内部の機構で破砕し、様々な恩恵を受ける術式棍、他にも捕縛用の鎖だの、色々と持っているようだ。搦め手に関してはオレより優れているだろう。過度な心配はしないことにしておくか。




