風太VSフードの女2
「!?」
「おお、怖い。最近の若い子は血気盛んだね。あたしはそういう子のほうが好きだけど、誰彼構わず嚙みつくのは行儀良くないんじゃないか?」
何だ?確かに今殴りつけた。相手は女だ。顔は躊躇した。だから、上半身。殴り潰してしまわないよう力を抑えてだが、確実に捕らえたと思っていた。
けど、殴る直前で滑る様なアイツの身体が傾いて拳が空を切った。ギアを上げきっていないとはいえ、初見でオレの一撃を躱すことなど常人じゃとても不可能なはずだ。つまり、オレの身体強化の異能を読み切り、その上で未来予知的に動いて躱したということか?
「一つ教訓だ。思考で追いついた答えが現実に結ぶこと。残念ながらこの世界じゃあんまりないんだよ」
「フン、どういう意味だよ?」
「あたしは君の先生じゃないんでね。解るまで試してみるといい」
「ッち!ぶっ飛ばされた後に泣かれても謝ってやらねーからなッ!」
なぜだろうか、頭に血が上り切っていた。道理も道徳も理解が出来ない程度には。相手は争う気は無いといった。なら、それでいいじゃないか。本当にそうならば話し合いで解決できるはずだ。じゃあ、こうして殴りかかっているオレはなんだ。
拳が再び金切り音のような甲高い音を立てて空を切る。
(何でだッ!?次は容赦しなかった。確実に潰すつもりで殴りつけた)
「残念、惜しかったね、お兄さん」
「……」
「お?もう終わりかな?あたしとしてはもう少し遊んであげてもよかったんだが、君が飽きちゃったのならそれ以上は無駄だよね」
女は臆することなく、オレのほうへと歩み寄りそう言った。
「あ?」
「だってそうだろう?君の目からさっきまでギラついて燃え上がっていた闘志が、すっかり失せてしまっている。解るよ。もう、諦めてしまったんだろう?」
「……ッ」
何も言い返せない。その言葉がこれほどないまでに的を射ていたからだ。
あの病院の地下、緑色のバリアを纏った魔獣と対峙した時にもこんな格差を感じなかった。それなのにたった二発、それも本気でもない攻撃を躱されただけで『勝てない』という意識を刷り込まれてしまったとでもいうのか。
いや、待てよ。
「おい、アンタ、能力者か?」
女は何も言わない。少なくない沈黙が辺りを支配する。
「……ああ。そうだよ」
漸く開いた口はそう語る。つまり女の異能、それは相手の攻撃を躱した時に刷り込ませる干渉系の能力だと推測できる。
刷り込ませる内容は恐らく“力の差”。自分にはどう足掻いても勝てないというビジョンを相手に植え付け、戦意自体を刈り取ってしまう能力。
それに気づかなければそのまま戦う気力さえなくなり、訳も分からないままなし崩し的に負けちまうってことか。
初段と二段目、オレの攻撃にどう対応したのかは謎のままだが、タネが解れば問題ない。
「フン、ペテン師が」
「少年。君じゃあ、あたしには勝てない。絶対にね」
「アンタは嘘つきだろ。オレらを。いや、千寿流を狙っていたワケ、話してもらうぜ」
「ははっ、アイツじゃ誰だか分かんないね」
ここからは第二ラウンド。ただ馬鹿正直に突っ込むだけじゃなく、フェイントを混ぜて確実に一発を当ててやる。
「ふぅー」
「ん、アリィちゃん?もしかして疲れてたりする?」
「え?いえいえ!そんなことないですよー!美味しいイタリアンも食べて元気いっぱいですからね!」
いけない。ちずちずの前では変わらないわたしでいなくては。おそらくですが、今ちずちずは何者かに狙われている状況下にあります。
それが命なのかということは断言できませんが、薄っすらと感じていた違和感、風太のサインで確信に変わりました。
流石魔獣狩りとして活動しているだけあって、その辺りは敏感ですね。これだけ早く気づけたのはラッキーといえるでしょう。完全に日が暮れてしまえば夜通し気を張り続ける必要がありますし、ここはこの流れでとっ捕まえておきたいところですが。
「ホントにどうしたの、アリィちゃん?さっきいっぱい食べてたし、おトイレとか?あたしに気にしないで行っていいよ?」
「あははは、本当に大丈夫ですって」
けど、その気配がたちどころに消えましたね。これはもしかすると風太のほうが目的だった、そういうことなのでしょうか。何かあれば連絡を入れてほしいとは言ってありますが、少し心配ですね。
「まあ、うん、そうですねー。ちずちず、とりあえず移動しましょうか」
「う、うん。わかった」




