平塚市という街
今あたしたちは平塚市にあるイタリアンレストランに来ている。
バス内では平塚市に到着次第、聞き込みについて下調べの為にも、街を一通り回ってみようという話だったが、アリィちゃんが小腹が空いたと言い出したのだ。ちなみにお店はアリィちゃんの希望だ。食事に関してはけっこうこだわりがあるみたい。
扉は二重扉で造られており、外から砂が入り込まないような構造となっていた。当然ながら窓は密閉、開閉は禁止されている。よく視ると、こちらも普通の窓と構造が違うような気がした。何だろうか、二重に重なって視えるのだ。
なるほど、扉一つとっても環境に合わせる必要があるのか。授業で習うこともあるが、現地に赴いて実際に確認するとより理解が深まるな。ちょっと感心する。
それに目に見えるほどの被害は出ていないようだったが、外を出歩く人は他の地区と比べてみても明らかに少なく、あたしあっちと同じように防塵ジャケットを着用している人がほとんどだ。
この中からあのローブの少女を見つけることは困難かと思ったが、あの子の格好はあたしたちが今着ているようなジャケットではなく、ゲームに出てくる魔術師が着ているような頭からすっぽりと被るものだった。ほら、ジェダイが着てるみたいなやつだ。カッコいいと思う反面、少し異質に思えたのをよく覚えている。
けれど、見てみた感じこの街を出歩いているような人に、そんなローブを羽織っている人は一人もいなかった。けど、そうであるならば、あの子を見つけるのも思ったより簡単なことかもしれない。
「ちずちず、難しい顔しちゃってどうしたんですか?ほら、このチーズ美味しいですよ~!カプレーゼって言うんですけど、トマトといっしょにパクっと食べると、口の中でとろけて旨味がぐわっと広がるんです!あ、トマト苦手だったりします?」
「あ、ううん、トマト好きだよ。ちょっと考え事しちゃってただけ。ん~ほんとだアリィちゃん!美味しいこのカト、えっと、カトリーヌ」
「カトリーヌじゃなくてカプレーゼです、ちずちず。確かに響きは似て、いえ、全然似てないですね」
「あ、そだね。うん、ゴメン」
いけない、話半分で聴いていたから、最近やっていたゲームのキャラクターと名前がごっちゃになってしまった。
「でも、美味しいね!あんまりこういうの食べたこと無かったけど、また食べたくなっちゃうな!」
「話変わるけどよ、お前の人探しどうすんだ。いざ来てみたものの、視界は悪くねえが道行く奴らどいつもこいつもが顔も口元も隠してやがる。幸い店の中じゃ上着は脱いでいる奴がほとんどだが、一人一人探すってなると骨が折れるどころじゃねえぞ」
風ちゃんの言うことはもっともだ。だから、先ほどまで考えていたあの子の特徴を今一度、覚えている事全部、出来るだけ鮮明に伝わるよう事細かに話すことにした。
「なるほど、ローブですか。そこまで特徴的だったんですね。それならば、確かにちずちずが言っている特徴と合致する子を見つけること自体は難しくない気もしますね」
「まあ、本当にここに住んでいるとしたら、だがな」
「うっ」
そう、この平塚市に住んでいない可能性。もちろん、そんなことはちょっと考えれば思いつくことだ。あたしだって考えた。この広い世界の中で、平塚市に住んでいると断言できる根拠のほうが圧倒的に少ないのだから。
けど、あたしと同じぐらいの、十歳程度の少女の行動範囲がそこまで広いものだろうか?そう考えた時、この黄砂吹き荒れる街に住んでいる可能性はけっして低くないような気がしたのだ。
「でもまあ、探してみましょうよ。落ち込むのは足が疲れて動けなくなった後でも構わないんですから。始める前から気を落としても良いことありませんよ、風太」
「……それもそうだな。悪ィ、今言ったページは千切ってその辺にでも捨てておいてくれ。猫が遊び道具にでも使ってくれらぁ」
そんな話をしていると、料理が出来上がったのか良い匂いが漂ってくる。
うん。風ちゃんの言ってることは良く分かんないけど、とりあえずはこれから運ばれてくるパスタに舌鼓を打つことにしよう。




