アリシアとの再会2
そう言うと風ちゃんはスタスタと歩いていってしまう。行き先はたぶんギルドだろう。
ギルドは厳密には違うものの、魔獣を専門に扱う何でも屋の様な機関だと思うと分かり易いかもしれない。なので、魔獣に関してはもちろん、魔獣が関与している可能性がある人探しなども兼任している部署もある。
不確定要素の多い事案は盥回しにされて、結果解決しないというケースも少なくないが、日夜滝のように流れ込んでくる正誤区別のつかない情報を捌ききるには、ある程度の心を鬼にする思いで臨まないといけない場面も出てくるのだろう。
でなければ自分たちが情報という波で出来た洪水に吞まれかねない。そうなれば本末転倒。だから、風ちゃんも期待していないのだろう。
「んで、何でアンタがここにいるんだ?」
「はなしっ!途中でしたよね!?」
「話って自己紹介の事か。オレはちゃんと言っただろ。それにアンタは名前だけでいいとも言った。自分で言ったこと忘れたのか?」
「工藤風太、以上だ。で終わる話が何処の国にあるって言うんですか!自己紹介が終わったら、ほら!何してるのーとか、話が弾んだらちょっと深堀してみるとか、色々あるでしょーが!」
「何言ってんだ、アンタ?そもそも赤の他人だろ。自己紹介すること自体おかしいんだよ」
アリシアちゃんがその発言に対し、さらに言い返そうと口を開こうとしたその時、番号が電光板に光って呼び出しがかかる。
「行ってくるわ。安心しろよ、オメーのことはちゃんと訊いてやるからよ」
ギルドは比較的身分など関係なく出入りをすることが出来る場所ではあるが、悪戯に魔獣の出現報告を行うわけにもいかない以上、秘匿性の高い情報が行きかう場でもある。
依頼の報告など、スマホを通して完了することもあるが、依頼の内容、その大小によっては直接身分を認識したうえで行うこともある。恐らくは何か問題が起きた際その場で取り押さえることが出来る様に、ということだろう。
なので、情報の提供や開示、ギルドから請け負った依頼の報告などは個人、グループや組織で行う場合はその代表の一名が行うこととなる。
今回、風太が個人で請け負った依頼の報告自体は、スマホを介して完了できる程度のものだったが、千寿流の求めている情報を提供してもらう以上、直接出向いたほうが良いと考えたのだった。
「おい、フェルメール。アンタ、そいつを見ててやってくれねえか。どうせアンタも依頼の報告とやらで来たんだろ」
「はぁあぁ~~~!?」
今日何度目かの“はぁ~”である。口癖なのだろうか。いやたぶん違うと思うけど。
「ごめんね、アリシアちゃん。あ、えっと、アリィちゃんって呼んでも良いかな?」
「ん!はいっ!もちろんです!ちずちずは可愛いですね~!あのキザ坊やとは大違いです!」
頬を軽くつままれてぷにぷにされる。言葉にしづらい不思議な感触。これは気持ちいいかもしれない。
「風ちゃん、悪い人じゃないんだよ。だって、あたしのこと助けてくれるって言ったし。風ちゃんも仕事あるのに付き合ってくれてる。それって、あたしよく分かんないんだけど、たぶんすごいこと、なんだと思うの」
「何か裏があるんじゃないんですか?ほら、ロリコンとかいう極悪性癖」
「違うよっ!勝手なこと言わないでっ!」
ロリコンが何だかよく分かってないけど、なんとなく言葉の響きが良くない感じがした。だから風ちゃんのことを悪く言われている気がして反射的に怒鳴ってしまった。
けど口に出してしまってから後悔する。あたしは喧嘩がしたいんじゃないんだ。
ああ、やばい。あの時も悪印象だったんだ。これじゃあ、今回も間違えちゃう。そんなつもりじゃないのに。
「ごめんなさい。……そうですね。はい、わたしも冗談で言っただけです。まだ会って間もないですけど、悪人だとはもちろん思ってないですよ」
けれど、アリィちゃんは怒るでもなく静かにそう言った。
「風ちゃんはさ。格好いいんだ。あたしが朝に観るアニメのヒーローみたいで。いつもは口悪い事とかも多いけど、あたしの事何度も守ってくれた」
直接お礼は何度も言ったつもりだったけど。まだ言い足りない。それぐらい風ちゃんには感謝してる。
「……やっぱり、兄妹、だったりはしないですよね?」
「へ?あたしと風ちゃん?ううん兄妹じゃないよ。だってほら、髪の色も眼の色とかも違うでしょ?」
アリィちゃんはあたしの全身を隈なく舐める様に見回した。なんだろう、何をしたわけでもないのに恥ずかしくてたまらない。
「ですよね。うん、改めて納得しました。というかそこが引っかかってここまでついてきたわけですから」
「どういうこと?」
アリィちゃんの話によると、兄妹にも見えない歳の差が離れた男女。世間では長期休暇も終わり、学校も始まったというのに、方や成人に近い年の男性、方や年端もいかない少女。こんな時間にそんな二人が並んでいるのが気になったという話だった。
う~ん、やっぱりそれっておかしい事なのかな。
風ちゃんが入って行った扉に目を向ける。どうやらまだ戻ってくる様子はない。そこで、誤解が解けるか分からないが、あたしの説明できる範囲で掻い摘みながら説明をすることにした。




