リモート授業
スマホの画面には二人の女性が大きく映っている。名前表示の部分には西村先生、三村先生と表記されていた。この人たちはあたしの学校の担任の先生と算数の先生だ。
昔の小学校ではクラスの担任が全ての教科を受け持つことも多かったが、現代の小学校は担任+教科担任の二人制で行われる。この辺りは学校によって細かい決まりが変わるらしいが、少なくともあたしの学校ではそのような方式がとられていた。
画面に表示されているのはその二人のみ。同じ時間に授業を受けている生徒についても表示が可能ではあるが、さすがにスマホの画面サイズで全員を表示するのは不可能なので、仕方なく非表示にしているというわけだ。
「それでは答えが解り次第入力して送信してくださいねっ。あ、分からないからってすぐに答えを見ちゃダメですからね。分からなくても分からないなりに考えて答えを導き出す、勉強はこれが一番大事なんですからっ」
表示されたのは簡単な図形の問題。たまたま簡単な問題が続いたのか、すらすらと記入していく千寿流。しかし、最後の問題、内角の角度を求める問題に頭を捻ってしまう。たしかに小学五年生で習う問題としては少し難し目。これが解けたらすごいチャレンジ問題というやつなのかもしれない。
内容は単純。四角形ABCDのうち、三つが判明している状態で残りの一つの角度を求めろという問題だ。
当たり前だが、四角形の内角の和はどんな歪な形になろうとも、合計値が三百六十度になるという法則がある。そのうちの三つが判明しているのなら後は引き算で簡単に答えが出る。
んん~分からない。
でもここまでは結構すらすら解けた。算数が苦手なあたしでもだ。たぶん、この前クラマちゃんに教えてもらったところばかりだから。
そして最後の問題。多分これさえあってれば満点なのだ。せっかくなら満点を取って先生に褒められたい。ここまでは真面目に解いていたのに千寿流の悪いところ、見栄が出てしまう。
「ね、ねぇね、風ちゃん。こっそり答え教えてよ」
「あぁ?」
隣でヘッドホンをつけてリズムに乗りながら釣りを楽しんでいる風ちゃんに声をかける。ふと疑問なのだが、あんなに竿を揺らしながらでも魚が引っかかるのだろうか?あたしも詳しくないから分からないが、周りにそんな人が誰もいない事から見ても多分間違っているのだろう。
普段は歩きながら授業を聴くことの方が多いが、今回は偶々近くに釣り堀があったので、あたしが授業受けている間、風ちゃんは釣りをして時間を潰してくれている。
「終わったのかよ?」
ヘッドホンを首にかけながら風ちゃんがそう言った。
「この部分、いくつになるかわかる?」
腕を組み、少し考える。
「八十五だな。それか九十五か」
「え、どっち?」
「八十五度だ」
やった!ちょっとズルいかもしれないけれど、最後の問題はいっつも難しくて毎回間違えてる。そんな問題をびしっとカッコよく正解出来たら注目されてしまうかもしれない。
「はい、お次は近衛さん!偉いわね、ちゃんと勉強頑張ってるみたい!この調子で次も頑張ってね!」
採点を終えた三村先生から一人ずつ答案の返しと簡単な一言を貰う。これを一人一人やって行ってると考えると先生って仕事は大変だなーって改めて思う。
そして、褒められた。苦手な算数だからなおのこと嬉しい。これなら次のやる気も沸いてくるというものだ。自身のことは良く分からないけれど、あたしはたぶん褒められて伸びるタイプだ。そう思った。
「けど、残念、近衛さん!すっごく惜しい!難しかったかな、最後の問題!最後の問題だけ間違っちゃってますっ!でも他は見事全部正解っ!」
「あう、残念。三村先生、えっと答えっていくつなの?」
「百十度よ、近衛さん。計算をちょっと焦っちゃったかな?」
その答えを聴いて示し合わせることもなく、あたしは風ちゃんと真顔で見合わせるのだった。
「……」




