いっしょに行くか?
「風ちゃんっ!?」
思ってもみない再会に驚きと喜びの入り混じった何とも言えない顔になる。
だってそれは驚く。たしか仕事があるって聴いていた。だから、もうすでにこの地区を離れてしまっていたと思っていたのだ。
「オレもそのつもりだったんだがな。離れたと思ったら結九里で魔獣が現れたって話が入ってきたもんだからよ。Uターンで帰って来たわけだ」
「そうだったんだ!もしかして魔獣をやっつけてくれたのって」
「いや、残念ながらオレは何もしちゃあいない。ここの奴らが勝手に追っ払いやがった後だ。フン、口だけのデクばかりと思ったがなかなかやりやがる」
口はちょっぴり悪いけれど、これってあたしたちのことを心配して戻ってきてくれたってことだよね。
「えっと、その、ところでその、今の話、聴いてた?」
「……」
風ちゃんは何も言わない。だから、日差しが照り付ける中、この空間だけ時が止まったように感じる。けどなんとなくわかる。風ちゃんは後ろめたいことがあると、嘘が吐けなくなるタイプなのかもしれない。
「やっぱり、最初から?」
「別に盗み聴きをしてやろうなんて思っちゃいなかったが、割り込むタイミングを逃したもんでよ」
らしくない。そう思った。風ちゃんはいつも生き生きしていて、もっと頼もしい存在だったはずだ。それが何だか今日は小さく視えた。
「いいよ、別に。あたしたちだって外で話してたんだし、しょうがないもん」
「お前。記憶が無えのか?」
そういえば風ちゃんには話していなかったかもしれない。あたしが牢屋に入れられていたこと、そしてそれより前の記憶にところどころ欠落があるということを。
どこから話を聴かれていたのかよく分からないけれど、ちょうど良い機会かもしれない。風ちゃんにもあたしのことを知っておいてもらいたいなと思った。だって、友だちだもんね。
「なるほどな」
「うん、風ちゃんには何かわかることある?」
「いや、サッパリだ。わかんねえ」
「そっか」
少しだけ、ほんの少しだけの期待。けど、やっぱりそう上手くはいかないみたいだ。
「けどよ、お前、あの時の異能、あそこまで変化が起きるタイプの異能にはオレも出会ったことがねえ」
あの時の異能。星ちゃんのキーホルダーを介して流れ込んできた力。あれがあたしの異能だったのだろうか。
「異能には先天的に生まれ持って授かる天賦タイプと後天的に発現する覚醒タイプがある。お前のケースは間違いなく後者、覚醒タイプだ」
それは知っている。今じゃ常識、学校とかでも習う内容だ。
じゃあ、なんで異能名が分からないんだろう。たしか、異能は覚醒した際に、天から啓示を受ける様に異能名が頭の中に流れ込んでくると聞いたことがある。
けど、あたしにはそれが無い。あの不思議で温かい力は謎のままだ。異能名が分からないから当然、自発的に発動することも出来ないだろう。あれから何度かキーホルダーを握りして念じてみたが何の変化も現れなかった。おそらくだが、条件の様な物が設定されているのかもしれない。
「けど、異能名は分かんないままだよ?」
「……そういう異能なのかもしれないな。正直異能のことはオレもよく分からねえんだ」
異能名が分からないのが異能の性質ってこと?そんなの好きな時に使えない不完全なものじゃないか。とんだ外れくじってわけ?
いや、もしかして記憶喪失で失ってしまった知識のどこかに、そのヒントとなるピースが眠っている可能性は?もし仮にそうだとしたら、記憶が戻りさえすれば、あたしが持っているこの異能の様な不思議な現象にも説明がつけれるのだろうか。
「オレはエスパーじゃねえから読心術の類は持ち合わせていないんだがな。不思議なこともあるもんだ。お前の考えてること、手に取るように解るぜ」
「う、うんっ」
ドキッとした。そんなに顔に出ていただろうか。
あの時、星ちゃんの声が確かに聴こえたんだ。
あたしのすぐ近く、すぐ隣で、寄り添うように、励ますように。
あたしはあの声をもう一度聴きたい。あの時のことは幻聴か、残滓が残っていたのか、何にも分からないまんまだけど、あたしの記憶喪失のその先に、少しでも近づく鍵があるのなら確かめてみたい。
「行くか?いっしょによ」
その言葉に思わず息を飲む。
「どんなに能書き垂れたって一度きり。死のうが生きようが全て一度きり、選び直しも後戻りも出来ねえんだ。心が腐っちまったら、たとえいくら長生きしたとしてもよ、なんも意味なんか無え」
だって、そんなこと言ってもらえると夢にも思っていなかったから。
「生きてりゃ良い事あるなんて言うが、良い事ってのは自ら歩み寄って勝ち取るもんだ。だったらよ、その機会だけは逃しちゃいけねえだろ?」




