父の想い2
無事こうして目の前にいるが、友人の死を目の前で目撃した。そんな悲しい気持ちにさせないための家族だろうが。俺は何をしている。酷い自己嫌悪だ。
けれど、それは悟られるな。千寿流は泣きそうな顔だ。俺まで泣きそうな顔になってどうするんだ。だから今だけは我慢しろ、秋久。
「ああ、何でもない。心配すんな。結九里に住んでるやつは、こんなことで根を上げることはしねえよ。大丈夫だ、絶対にな」
時計を見る。時刻は七時を回ろうとしていた。まだ時刻は早いが極度の緊張状態が解けたことからによる反動の様な物だろうか。子供たちの中には何人か眠そうに目を擦る者もいた。
「千尋、ガキ共の寝る支度頼めるか?まだ時間的にはちょいと早いが、眠そうにしてるやつは寝かしつけてやってくれ」
「はい、秋久さんっ!」
「ママっ!あたしも手伝うよ!」
「……そうね、じゃあいっしょにやろっか、千寿流!」
秋久はその様子を見守り、微笑みを浮かべた。事態はまだ予断を許さない状況ではあるが、その表情にはわずかながらの安堵と感謝の気持ちが込められていた。
「おいクラマ。お前も休んどけ」
「私は問題ないですよ。まだまだ、体力は有り余っていますので!」
「いいから。お前には俺と交代で寝ずの番をやってほしいんだ。ここには、お前しかいないからな」
秋久の視界の隅にシャルが入り一瞬言葉に詰まったが、秋久はそう言い切った。シャルの幼児退行化の異変への認識修正が物事を違和感のないように修正する。脳に違和感を覚えつつも“こうだった”のだと、脳内が勝手に認識したのだ。
「秋久様。はい、分かりました。それではお言葉に甘えさせていただきますね。必要な時にお申しつけください。それでは、少し早いですがおやすみなさい」
「おう、おやすみ。夢ぐらいは良いモン観てくれ」
恐らくだが、今夜はもう魔獣の来訪は無いだろう。これは理屈とか根拠があっての話ではない。ただ、そんな気がするだけ。けど、だからといって気を抜ける状況じゃない。
とりあえず一徹。さっきはああ言ったが、寝ているクラマを起こす気など全くなかった。この歳でオールってのはちょっと堪えるが、緊張感を持って挑まなきゃいけない時ってのは往々にあるもんだ。
腐っても一家を支える大黒柱。意地の見せ所だな。
____ちゅんちゅんちゅん
小鳥のさえずりが聴こえる。
「っは!?やべッ!寝ちまったのか、俺は!?」
キョロキョロと周りを見渡す。そこには笑顔でこちら見つめる千尋の姿があった。
「おはよう、秋久さん」
思わず顔を俯ける。あれだけ、眠らずに耐えきってみせると息を巻いていたのにも拘らずこの体たらく。合わせる顔が無いとはこのことだろうか。こんなことならば、意地など張らずに眠くなった際にクラマに代わってもらえばよかったのだ。
「悪ぃ、俺は」
千尋の声色から察するに大事は起きていないのだろう。何も問題は起きていないと思いたい。
「ううん、クラマちゃんが言うには秋久さん、ちゃんと起こしに来てくれたそうよ?眠そうな顔をして、悪ぃ、もう限界みてえだって感じで」
「は?」
いやおい、なんだそれは?
千尋が言っていることが本当だとしたら、俺は眠りそうになった際に自ら腰を上げてクラマを呼びに行ったっていうことだよな。おいおい、全然覚えていないぞ。
千尋は秋久が腕を組んで悩んでいるのを確認し、ちらりと後ろを向いてクラマと目配せのウインクをした。
実のところ、秋久はクラマを起こしに行くことなどしておらず、寄る睡魔に勝てず眠ってしまったのだ。しかし、それを本人に伝えては気に病んでしまうと考え、起こしに来て交代したということにしようと、口裏を合わせていたのだ。
それにクラマは音量を小さくしたアラームを定期的に設定しており、秋久の身に何かが起こった時には即座に対応できるようにしていた。
実際クラマの話では、魔獣は現れた様子も無く、何も大事に至っていないので問題はない。そう考えたのだ。
「ほらほら、朝の支度しないと。ちゃっちゃと着替えちゃってね」
「お、おう。顔洗ってくるわ」
秋久はいまいち状況を把握できておらず、頭をポリポリと掻きながら部屋を出ていく。彼がいなくなったことを確認すると、千尋とクラマ、二人は顔を見合わせて微笑み合うのだった。




